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救出の旅
「まず、北を目指します」
「北?」
あたしとノーヴァは王都の街にある、とある食事処で腹ごしらえをしている。
あたしは相変わらず衛兵の姿。ノーヴァはいつものノーヴァの姿だ。
「アルが幽閉されている場所へ徐々に近付けるようにいたしましょう」
「幽閉……。穏やかじゃないわね」
街中で「殿下」とか「アルバート王子」は流石にまずいのか、ノーヴァはアルを「アル」と呼ぶ。
あたしはつい昨日離れたばかりのアルを思い出して恋しさを覚えた。
会いたいな、と思ったら溜息が出そうになっちゃうから、誤魔化すようにパンを口に詰めて息が口から出ないようにした。
「もともと、アルは危険人物として……私がお目付け役を命じられたくらいの方で」
「危険人物? あの人が?」
「感情が高ぶると、能力が暴発するところがあったのです。もともと、気性も荒いお方で」
「……ん? それ、誰の話?」
「ですから……」
ノーヴァは眉間に皺を寄せて、ポークのグリルにナイフを入れている。
「アルですよ」
「嘘でしょ、そんな様子ちっとも……」
「貴女の前では随分と装っておりましたから」
「あたし、やっぱりあの人の事、よく分かってないのかしら」
男の衛兵の姿なのに、こんな女言葉で話していたらノーヴァは気持ち悪くないのかしら、と思いながらも普段通りの口調になっちゃうあたし。
「いや、もしかすると……貴女と一緒に居る時のアルが、本来のアルなのかもしれません」
「常に、自然だったわ……」
しんみりして、涙が出そうになる。
会いたい。会いたい。会いたい。
こんな衛兵の姿で泣いたりしたら、絶対不審だ。ノーヴァだって困るに決まってる。
でも、あたしはアルと引き離されて、幸せの絶頂からどん底に落とされたんだって今更思い知ったばかり。
「我慢なさらないで下さい」
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