新月の夜

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マティアスは誰かと結婚する。いえ、誰かさん「たち」と結婚する。そして、あたしは平民だけど我が家の財産を狙った人たちから甘い言葉で寄ってこられる。一生遊んで暮らせるなら、みんな、あたしに取り入るくらいのことは平気らしい。 さっき出会ったアルのことを思い出す。あの人は、あたしがクリオス社のウィルダだと気付いていたのだろうか。あまりに素敵な人だったから、満月の日に会えると言ってくれた言葉が、あたしのことを知らずに発したものだと信じたくなってしまう。 「チイ」 ライ麦の精霊が、あたしの頭に乗った。人懐こい子だわ。 「お前、どうしてあたしに構うのかしら? もしかして気付いたの?」 「チ」 短く鳴いた声に、慰められているのかな、なんて思ってしまう。 「ありがとう。あんたには分かるのね。あたし……、『クリオスのウィルダ』目当てで近寄られるのはもう嫌だわ」 その子はまた、「チイ」と鳴いた。この日の新月の夜は、ライ麦の精霊だけがずっとあたしの側に付いていた。
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