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満月の日
「引き金を二段階に引けるように出来ないかしら? 一段階目で精霊の力を確認してから、ぐっと引ければ、上手く行きそうなのよ」
休み明けの日、あたしは研究室で新しい精霊銃の試作品を見ながら研究員たちと話し合っている。
「動力の確認が、ウィルダ様のような加護の有る方でなければ分からない可能性がありますが……」
「だから、加護のない人にも指の感覚で分かるようにすればいいじゃない」
大抵、みんなはあたしの感覚が「普通じゃないのだから」という言い方をする。だから、人とは違うあたしの言うことはどこかずれていると言う。こういう言い方をしないのは、あたしの周りには残念ながらマティアスしかいない。
「指の感覚ですか……」
「そうよ。指の感覚だけで分かるようにするの」
言うのは簡単ですが、という顔をして研究員たちが絶望的な目をこちらに向ける。分かってるわ、その精霊の力を肉眼で見られるのは、この中ではあたししかいない。分からないものをどうやって感覚にするのかってことなんでしょう。
「勿論……あたしがずっと側で指示するから」
「よろしくお願いします……」
研究員のみんなにとって、あたしは同僚だけど社長の娘。どうしたって上下関係みたいなものが出てしまう。こういう関係値が、あたしはあんまり好きじゃない。だけど、そうも言ってられないわけで。
「別に、気にしないで。これはあたしが製品化したくて研究していることなのだから」
なるべく、あたしはみんなと壁を作らないように努める。ここにいるみんなはあたしに心なんて開いてくれないだろうけど、あたしにとっては大切な同僚なのよ。
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