こわい話

夢十夜

１．羊を数えるたび寝室に一頭また一頭こっそり侵入してくる羊におまえは気づいていない。

２．その病院には、院内で見つけた蝶を殺す仕事がある。

３．生前重度の蝸牛恐怖症だった老婆を解剖すると、脳溝の奥深くにカタツムリそっくりの寄生虫がびっしり巣くっていた。

４．もらったお年玉がすべて香典に変わっている。

５．開発で埋め立てられてゆく海を眺めていた子どもの姿は、海神様の祠が取り壊された日からぱたりとみえなくなった。

６．けさお前が「おはよう」の挨拶を忘れたせいで、お父様もお母様も二度と目を覚まさない。

７．夜知らない人が部屋にやってきて線香をぽきぽき折っていくんだって。

８．ある外国語におけるすべての単語は〈不安〉を語源にもつという。

９．乗客乗員全員の死亡が確認された旅客機墜落事故は、交信記録が子守唄の大合唱で終わっていた。

10．ふと目を覚ますと、部屋のくらがりで羊たちが悪夢の続きをささやき合っている。