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母の話③
道中を心配して、近所の人たちが、基隆まで付き添ってくれた。おかげで、無事港にたどり着いた。
日本に到着するまでの間、船酔いがひどかった、と母は話した。
引き上げ後、鹿児島の祖父の親戚の家に身を寄せた。亡くなった祖父が精糖会社に勤務たったこともあって、母たちは、少なからぬ量の砂糖を持ち帰っていたが、その価値を知らなかった。
砂糖を渡しているうちは愛想の良かった親戚は、切らした途端にガラリと態度を変えた。
「砂糖の切れ目が縁の切れ目だったねぇ」
後年母はそう言って苦笑いした。
祖母は帰国してしばらくすると亡くなった。台湾の家は、祖父が、今で言うバリアフリーに改造していたため、日常動作に不自由する事はなかったし、邪険にする者も居なかった。しかし、故国である日本は違った。
「台湾に帰りたい」と言って、祖母は亡くなった。
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