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「香月」
彼はわたしを、名字で呼ぶ。
「──ごめん。待たせた」
担任に捕まって、と言葉を続けながら、こちらへと歩み寄る。
大きなストライド。
ゆったりとして見えるのに、いつも素早い。わたしはまだ、慣れない。
「帰ろう」
真横に並んで促す、その声の近さにもまだ、少し……慣れない。
わたしが黙って頷くと、彼はさっさと歩きだした。
でも。
窺うみたいな、その爪先が。
歩幅を合わせてくれているのに気付いたからわたし、あっけなく、好きになってしまった。
わたしも、彼を、好きになってしまった。
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