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2
──好きなんだ。
付き合ってほしい。
半月前。
図書委員のわたしが、当番を終えて帰る、その放課後。
ひとけのない廊下で待ち受けて、彼はわたしにそう言った。
「え? ……」
誰が、と思った。
誰を、と辺りを見回した。
誰もいない……。
このひとと、わたしきり。
訝しさがきっと、顔いっぱいに出ていた。香月のことが、と彼はもう一度言った。
「ずっと前から、香月のことが好きだった」
そこまで言われてやっと、わたしは驚いて、慌てて──それから、あっ、とひらめいた。
「あの」
「別に罰ゲームとかじゃないから」
ぱしん、と打ったみたいな口調。
真剣、みたいな。怒った、みたいな。
彼のそれがどんな感情から来るものなのか、わたしにはわからなかった。
彼というひとは、わたしにとって、それくらい遠いクラスメイトだった。
そう、遠い──。
いつも人に囲まれているひと。
知らず知らず、人が寄っていくひと。
彼はそういうひとだから。
何を。
──どう言えば、いいのか。
どんな顔をすればいいのか。
真っ白になった頭でつい、うっかりと、わたしは彼を見つめてしまった。
「ふはっ」
彼は笑った。
「──え。え、」
「くくっ、ああ、…参ったな」
なにを言っているの、このひと。
「あの」
「驚いた?」
驚いた。…だって。
突然で……。
「でもほんとに、ずっと前から香月のこと見てたから」
少し目じりを下げて、彼は笑った。
手癖みたいに、前髪を後ろに掻いた。
気さくそうな、仕種に見えた。
「別にからかってるんじゃないよ」
……そうかも、しれないけど。
「考えてることが手に取るようにわかるのが可笑しくて」
……顔に出ちゃったのは、申し訳ない、けれど。
「だから香月」
……どんな顔を、したらいいのか。わたしは。
「ひとことだけ応えてくれればいいから」
「…あの、」
「付き合ってください」
……このひとに何を、言ったらいいのか。
「はいって言って、香月」
「あの、え、…はい。……え?」
え?
流されてしまったのは、他人にうまく言葉を伝えられないわたしのせい?
それとも。
ぱっと陽が射すみたいにほころんだ彼の、笑顔のせい?
──…ああ、だめだわ。
わたしのコミュニケーション能力じゃあ、こんなひとにはついてゆけないもの……。
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