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「香月は人見知りだよね」
きょうの日にわたしの心を引き戻して、彼はふいにそう言った。
夏の夕暮れ時は、まだまだ日が高くて、暑い。
わたしたちの帰路は、大きな交差点にさしかかろうとしていた。
この信号を過ぎると、彼はあっち、わたしはこっち。
青に変わった信号を、彼は見上げた。
「行こう」
さっと歩き出す。
慌てて、追いかける。
でも。
大きな靴の爪先が、ふっと歩調を緩めてくれるのをもう、わたしは知ってる。
行き交う人波に縺れないよう、半歩前を進んでくれるのを、知ってる。
少し高い位置にある肩幅が、意外と広い。
そこにはいつも、軽そうなリュックバッグが、片側にだけかかっている。
そのうちに彼は、さっと鞄を背にさばいて、ズボンのポケットに手をしまう。
その肩ごしに、こちらを振り返って──ふっと、笑う。
穏やかな視線に、目が眩む。
「香月は人見知りで、しかも結構かなり押しに弱い」
まぶしいなあ。まるで。
太陽みたい。
「…うん、そう」
どうしてこのひと……。
わたしなんかを、好きなのかしら。
好きになって、くれたのかしら。
「そう、わたし、いつもうまく、できないの」
「知ってる。だから心配」
肩を竦めて、太陽が笑った。
「心配? どうして……」
「どうしても」
「…なにが」
「いろんな事が」
なぞなぞみたい。
狡いみたい。だって──。
そんなふうに、きらきら笑われたらわたし、今夜もずっと考えてしまう。
あなたのこと、ずっと考えてしまう。
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