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別の日の帰り道。 「そのハンカチ、使ってくれてるんだ」 立ち寄った公園のベンチで、彼はペットボトルをあおった。 向こうの広場では子どもたちが、汗で髪を貼りつかせながら走り回っている。 日傘をさしたご婦人が、犬を引いて横切ってゆく。   ベンチには小さな屋根。 でもこんな強い陽射しの下、買ったばかりのペットボトルはもう、水滴だらけ。 ぱた、   …ぱた。 きれい。光の粒みたいに。 涼やかなラベルを雫が滑る。 彼の手首から肘を伝い、地面に落ちて吸いこまれてく。 「…うん、これ、使ってるの」 「良かった」 彼は、ふたりの間に置いたわたしのバッグを見下ろしている。 そこから、タオル地の布を取り出すのを、目を細めて見ている。 あ、 笑った。 「また汚すから」 差し出したハンカチを、彼は手のひらを立ててとどめた。 ……大きな、手。 「そんなこと……」 「汗かいてるから汚す。ああでも、そうしたらまた別のをプレゼントできるな」 いたずらっこみたいな目で、また微笑んだ。 ──彼がハンカチをくれた。 それは告白をされるよりももっと、前のこと。
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