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ミズキの嫌いなことベストスリーはこうだ。
1.バイオリン練習中のベル音。
2.思索中のベル音。
3.食事中、あるいはお茶中のベル音。
だから彼女はスマホを絶対に持ち歩かない。ほとんどアパートで固定電話機化している。そして、人恋しくなると、数少ない登録者の中から適当な人間を選び出しバカ話をする。一応恋人ということになっている僕が選ばれることはまずない。彼女が通話している姿は一度だけ見たことがある。誰だと訊いたら妹だと答えた。女の声があんなに低いのか? 釈然としない思いが残ったがそれ以上追及はしなかった。
今日だって、僕が好き好んで彼女を放置したのではない。スマホにメッセージを送ってくれればそれなりに対処はできたはずなのだ。ポストに鍵を放り込んでおくなり、勝手口を開けておくなり。
「で、丸一日、何をしてたんだい? 出張先の名古屋は晴れていたけど、関東は全域雨だったろ?」
僕は寝室に設置したミニバーの冷蔵庫から缶ビールを二本取り出しプルトップを抜いて手渡てやる。彼女は小鳥のように口を突き出しすすった。
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