1人が本棚に入れています
本棚に追加
ミズキは僕の家に来るとき、着替えを持ってくる習慣がない。かまわない。僕は小柄な彼女が男物のぶかぶかの衣服を身にまとっている姿がかわいくて好きだ。今も、薄いTシャツとハーフパンツ。乳首が透けて見える。僕は一人でニンマリしていしまう。
「雨だからこそ楽しかったのに」
昨日の朝十時ごろにここに着いたという。それから今日僕が帰宅した午後五時すぎまで庭先で過ごしたのだ。その間雨の音を聞きながら、壊れた雨樋から落ちる水の流れをながめながら、風にあおられ、しぶきで顔が濡れる感覚を楽しみながら過ごしていたという。
「夜はどうしたんだよ? バルコニーだって玄関先だって、通行人がのぞいたら若い女が無防備に寝ているのが見えるだろうが」
彼女はそれには答えずに、壁に立てかけたバイオリンのケースを引き寄せ開く。細い腕に虫刺されの痕が無数に記録されている。
「あなたの庭で一日中雨の音を聞くことができて、私、少し変わったと思う」
「雨で人格が変わるっていうのは初めて聞いたけどね」
彼女は楽器を肩に乗せると顎で押さえ、弓を張り、調弦を始めた。
「じゃ、聞いてくれる?」
僕はビールを片手に籐の椅子に腰かけた。
最初のコメントを投稿しよう!