8人が本棚に入れています
本棚に追加
私を迎えに来た母は、能面のような顔で一言も口を利かなかった。ただ家に帰ることを目的として義務的に足を動かしていた。私が呼びかけても母は私を見なかった。
温かいはずの母の手が冷たく感じる。指先から冷気が伝い、心はさらに冷えた。私は愛されている。愛されているはずなのだ。憎んでなどいない。ずっとそう思っていた。けれども、幼い頃に与えられた傷は大人になっても残り続けるものだ。
一人ぼっちになるまで保育園に取り残されたこと。握った手が酷く冷たかったこと。私を見ない母の顔。忌まわしい忌まわしい過去。
いい大人のくせに私は未だに過去と折り合いをつけることもできていない。こうして心が身体が弱るたびに、過去に振り回されている。もういい加減忘れてしまえばいいのに。呪いのように私を縛り付けるものの正体は、きっと『愛情』とかいう複雑で難解な感情なのだろう。
こんな夢、早く覚めてしまえ。
最初のコメントを投稿しよう!