帰路

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「あっ、いたよー! おーいパパ―!」 「航さん」  妻と娘が改札の出口付近に手を振って立っていた。私は二人の元へと駆けていく。 「この雨の中どうしたんだ」  私は予想もしていなかった出来事に戸惑い、妻に問いかけた。 「どうしたって……迎えに来たんじゃない。今日は夕方から雨の予報だって言ってたのに、航さん傘も持たずに家を出ちゃうから……はい、これ」  妻は私に紺色の傘を差し出した。私は傘をありがたく受け取る。  『迎えに来た』。その言葉はどこかこそばゆく嬉しいものであった。私には迎えに来てくれる人がいるのだ。あの頃とは違う。温かな手で笑いかけてくれる人がいるのだ。案外、幸せは側に転がっている。多忙すぎる日々の中で当たり前のことさえも見失っていた。 「パパってばーおっちょこちょいだねー」 「そうだね」 「少し雨が弱まってきたわよ。今のうちに急いで帰りましょう」 「パパ、早く来てー」  娘に手を引かれ私は歩き出す。三人で歩く雨の街は心地よかった。  辛い過去はもういらない。今日のこの瞬間も今も、すべてが過去になる。それならば、私は幸せな過去だけを抱きしめて生きたい。それだけできっと十分だから。
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