帰路

　車窓の外にどんよりとした鈍色の空が広がっている。今にも雨が降り出しそうだった。私は座席に深く沈みこむように座り、ため息をつく。連日の残業で心身に疲労が溜まっていた。幸いにも今日は金曜日で明日は休日だ。久々にゆっくりと眠ることができるだろう。

　心地よい電車の揺れを感じながら、そんなことを考える。通勤ラッシュとは打って変わって車内の人はまばらだった。時折聞こえてくるのは、向かいに座る中年女性たちのおしゃべり声、車内アナウンスと風を切って進む音。

　耳慣れた生活音と規則的な揺れ、疲労感が睡魔の波となって押し寄せてくる。重くなる瞼を気力で持ち上げ車内電光掲示板に目を向ける。我が家の最寄り駅までは、あと10駅近くあった。

　今、寝ても乗り過ごす可能性は低いだろう。そう判断した私は安心して睡魔に意識を委ねた。