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天田は幼い頃からファンタジーが好きだった。外で友達と遊びまわるより、一人でファンタジー小説を読み漁るほうが好きだった。様々な場面を想像し、やがて自分で描くようになった。
主な対象が実在しないものだはいえ、当てずっぽうに描いてよいわけではない。対象を正確に捉えるという点では、一般的な絵画の考え方とさして変わらない。天田は自らの妄想、絵空事をつぶさに観察し、学んだ技法を正確に駆使して表現した。一度こだわり始めるととことん追求する性格の彼は、丹念に絵を描いた。
そのおかげか少しずつ芽が出て、いまや幻想的な絵を多数描く空想画家としてようやく独り立ちできそうになってきていた。
だが、有象無象の画家志望者の群れから抜け出すには、あと一つ、何かが足りなかった。その何かを掴みとれないでいた。
天田は草をむしって放り投げた。葉っぱがぱらぱらと宙を舞い、風に流されていった。風は天田の鼻をそっと撫でた。おや、と違和感を覚えたときには遅かった。
いつの間にか、分厚い雲が空を覆いつくしていた。もはや日陰となっていたのは天田がいた所だけではなかった。カンカン照りの日射しはどこへやら、辺り一面薄暗かった。
「まずいな」
ねずみ色の雲が稲光を孕み、ごろごろと音を立てている。大きいのが来そうだ、と思った瞬間、雷がひと際激しく光り、少し間を置いてから空を割ったかのような大きな音が轟いた。
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