画龍驟雨

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ホールの一画に人だかりができていた。フロアのスタッフが列を整え、混雑を捌いていた。 各々の順番になり、その絵の正面に立つ度に、観覧者たちは思わず息を呑んだ。 人一人でも十分に抱えられる程の大きさの枠の中に収まりきらない、堂々たる威容を放つ龍が、そこに居たからである。 いや、単に”居た”のではない。龍は確かに生きていた。風を切り雨を切り、大空を我が物顔で突き進む。それはまさしく、大空の主だった。 自然画、風景画の基本的な技法を踏まえつつも、激しいタッチで自らの空想に生命を吹き込んだその絵は、型を活かしながらも型破りな絵として、高く評価されたのだった。 やがて閉館時間となった。 誰もいなくなったフロアの一画で、一人の男が龍の絵をじっと見つめていた。男は”龍”に向かって話しかけた。 「俺はこれからも進み続けるよ。お前みたいに」 返事は、もちろん無い。それでも男は確かなものを感じ取り、”龍”の前から立ち去った。 その背を見送ったのかどうかは分からないが、”龍”は今この瞬間も、四角い大空を突き進んでいる。
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