ある夏、18:05

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「ごめん……私、基本研究室こもりっ放しだから」 「そうだよね、化学科は忙しいで有名だし、俺は経済だから授業棟もぜんぜん違うしね」 「えー、でも同じ大学だったんだ、早く言ってよー」  そう言って下がってきたエコバッグを肩にかけなおせば、翡翠くんは少しだけ黙り込んだ。 「翡翠くん?」 「あ、えっと」 「どしたの?」 「いや、一方的に知ってるとか……気持ち悪いって思われたらやだなって思って」  ザァ、と傘に当たる雨の中、小さく落とされた声に驚いて目を見開く。 「そんなのぜんぜん思わないよ!」  何でそんな風に思ったのだろう。知らなかったこっちの方が申し訳なくなってくる。 「正直、ほんとに助かった! だから、声かけてくれてありがとう」 「……そっか、」  そっかぁ、と安心したみたいに呟きながらくしゃっと笑った彼に、烏滸がましいながらも可愛いと思ってしまった。子犬みたいに笑うんだもん。 「むしろ、私が同じ大学だって知ってたから声かけてくれたんでしょ?」 「うん、そんな感じ。でも声かけんのちょっと不安だった、実際すごいきょどってたし」 「それは……ごめんって、でも、普通に翡翠くんみたいな人に声かけられたらびっくりするよ」 「えー、そっかなぁ」  そうだよ。だって君イケメンだもん。
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