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異世界に行った話をします
これからするお話は、小説ではありません。
私が現実に体験したお話です。
私は幽霊や超能力や都市伝説と言ったものをあまり信じていません。
あればいいなとは思っています。
なぜならその方が世界が楽しく見えるからです。
けれど、実際はやはりないと思っています。
見えることもありません。
宇宙人は信じています。
これだけ広い宇宙ですもの。
いやむしろ、地球に生物が生まれたこと自体、宇宙人が関係しているのではと思うのです。
まあ、それはさておき。
本題に移ります。
私は幼い頃、異世界に行ったことがあります。
異世界と言っていいのかどうかわかりませんが、とにかく不思議な場所です。
始めにお断りしておきますが、この話はとくに楽しい話でもありません。
ただ、そう言うことがありましたと言うだけの話です。
なのであまり期待はしないでください。
あれは確か、小学校に上がったくらいの頃でした。
私はそれまで近所に同じくらいの年の子が少なく、あまり外に遊びに出るような子ではありませんでした。
けれど小学校に入って、何人か友達もでき、一緒に遊ぶようになり、行動範囲も広がりました。
ある日、私がお母さんと時々歩く、Yの字の大きな道路に友達と行きました。
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西から東に向かって歩くと、上に行くと大きな川、下に行くと友達の家のある住宅街に抜ける道です。
私は知らなかったのですが、友達について歩きながら、その上の道と下の道の間に、とても細い抜け道があることを教えてもらったのです。
距離にすると、ほんの五十メートルほどの道だったと思います。
子供の足でも歩いて一分もかからないほどです。
それはとても細く、なんだか不思議な感じのする道でした。
幅は一メートルもありません。
人と人とがやっとすれ違えるくらいの幅です。
右と左には、高い壁がありました。
左には、見知らぬ家々が立ち並び、それを隠すように壁があったのです。
また右には、どうやら大きなお屋敷があるらしく、やはりコンクリートと煉瓦でできた高い壁がありました。
どちらの壁も、高さが二メートルほどはあったと思います。
幼かった私たちには、さらにその壁は高く見えました。
そしてその両側の壁のせいで、道はいつも薄暗く、静かでした。
ある日私は、きっとお母さんも知らないであろうこの抜け道を自慢したくて、お母さんを散歩に誘いました。
小さな子供にとって、お母さんの知らないことを知っているのは、とても得意な気分だったのです。
それは夕方の四時くらいだったと思います。
時間を覚えているわけではありませんが、太陽の角度がそれくらいだったと覚えているだけです。
私はお母さんを連れ、Yの字になった道路の下側からその道に入りました。
とても小さな階段があり、そこを上っていきました。
私はお母さんと手を繋いでいましたが、二人が並んでやっと通れるほどの狭さです。
空は晴れていましたが、その細い道は両側が高い壁で挟まれているため、やはりその日もとても薄暗く感じました。
お母さんと手を繋ぎ、私は心の中で「こんな道があるんだよ」と自慢げに歩いていました。
歩き続けました。
あれ? と思いながら歩き続けました。
こんなに……、こんなに長い道だったかな? と思いながら歩き続けました。
もうそろそろ反対側に抜けてもいいころなのに……。と思いながら歩き続けました。
そんなに何度も通ったわけではないので、もっと短いと思っていたけれど、こんなに長い道だったかな。と思いながら歩き続けました。
もしかして、間違えて違う道に入ってしまったのかな。それなら恥ずかしいなと思いながら歩き続けました。
けどやはり……、歩いても歩いても……、こんなに長い道のはずがない……、やっぱり私、道を間違えたんだ……、けれど今さら言い出すのも……、そんな風に思いながら、ずっとずっと歩き続けました。
どれほどの時間、その細い道を歩き続けたかわかりません。
十分、二十分、もっともっとそれ以上だったかもしれません。
とにかくいつまでたっても反対側に出ない細くて薄暗い道を、お母さんと手を繋いで歩き続けたのです。
そしてもう何がどうなっているのかわからないままひたすら歩き続けると、不意にとても広く開けた場所に出たのです。
そして私はあっけにとられ、お母さんの手を握ったまま立ち止まりました。
そこは、まったく私の知っている場所ではなかったからです。
空は一面に輝いていました。
太陽が真上にあると言うのではなく、空が一面、金色に輝いているのです。
青空と言うものがありません。
とにかく空一面が光を放ち、眩しいのです。
そして目の前を見ると、段々畑のようになった丘が広がり、そこは一面の花畑になっているのです。
そしてその花畑には、一定の間隔を置いて、北ヨーロッパの民族衣装のようなものを着た女の人たちが並び、身体の半分はあろうかという大きなジョウロを持って花に水をやっているのです。
女性たちはみな白人の人たちでした。
綺麗な金髪の髪をしているのです。
そして手に持ったジョウロを、みんな同じゆるやかなリズムで大きく大きく左右に振って水を撒いているのです。
その光景は、ひと言で言うと、天国のような場所でした。
けれど、なんだか、恐ろしい場所でもありました。
人が踏み入ってはいけないような雰囲気があったからです。
そんな光景を見ながら、隣にお母さんがいることすら忘れ、私は唖然と立ち尽くすしかありませんでした。
そしてふと我を取り戻したように急にお母さんが強く私の手を引っ張り、「行こう」と低く言ったのです。
その後のことは覚えていません。
気が付くと、私はお母さんに引っ張られ、細い道の反対側へと出ていました。
来た時は何十分も歩いたはずなのに、その場所から外に出るまではほんの数分だったような気がします。
話はそれで終わりです。
私がなぜこんな話をしようと思ったかと言うと、よく異世界を描いた小説を見ますが、実際の異世界はもっともっと理解のできない不可思議な場所だと言うことを伝えたかったからです。
恐らくきっと、言葉も通じないでしょう。
人が生きていけるような場所だとは思えませんでした。
私からは女の人たちの姿を見ることができましたが、きっとあの女の人たちからは私たちが見えていなかったと思います。
女の人たちは、とても幸せそうに花に水をやっていたように見えましたが、なんだか魂の抜けたような雰囲気がありました。
時間の流れ方も違っていたと思います。
何と言うか、女の人たちの動きが、同じ短い動画を何度もなんども繰り返すような動き方をしていたからです。
これは私がとても小さな頃、ずっとずっと昔のお話です。
だからもしかしたら、夢で見たことを現実にあったことと勘違いして記憶しているのかも知れません。
小さな子供は、想像と現実の区別がつかないことがあると聞いたことがあります。
ただ、一つ言えるのは、私はその頃の記憶で、これほど鮮明に今でも覚えていることはありません。
ましてや、夢で見たことなんて、何一つ覚えてはいないのです。
この異世界に行った時の記憶は、唯一私の中にある、幼い頃の記憶でもあるのです。
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