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跳ねる鼓動がうるさいけれど、わたしはまたコクリと頷くとカバンからスマホを出してQRコードを表示した。
『振って交換じゃないんだ?』
フッと笑った後、即でメモ画面に反応を打ち込む早さに面食らう。
『わたしは位置情報許可してないので』
わたしも自身のメモ画面を開き、ぎこちない動作で先輩の何倍も時間を掛けて打ち込む。今はチャットでないけれどやっぱり速度は気になった。
『こんなに返信遅くてID交換してもチャットにならないんですけど……』
それだけ表示してQRコードを再び表示する。
着信のバイブとともに満面の笑顔が目の前に広がった。
『良いよ! 全然! 色々楽しいし』
初めての先輩からのメッセに全身が痺れる。
『有り難うございます』
多分震えているのにも気づかれている。それでも先輩に初のメッセージを送った後笑顔を向けた。その瞬間に先輩はスマホに視線を落とす。その後、少し間が開いて着信が来た。
『雨ヤバイね』
『雨自体は嫌いではないですが色々濡れて困ってます』
『……普通は仕掛けてる言葉だよな』
『普通が分からないので大変申し訳ありませんが、〝仕掛ける〟とはどういった意味でしょうか』
先輩はフフッと笑みを零して肩を揺らし小さく何かを呟いている気がした。
『そんなに濡れて寒くない? オレ何も持ってないから情けない』
『わたしより波奈先輩の方が濡れてますよ。風邪ひいちゃったら先輩の周りのお姫様たちに心配かけちゃいますね』
『オレは大丈夫……って、〝お姫様〟?』
『先輩はキラキラ王子様みたいで。だったら周りのキレイな方がたは〝お姫様〟かな? って』
『きっと自分込みの表現じゃない、よな?』
『滅相もない! 先輩たちのキラキラ世界をさらに遠巻きに見ている一般市民ですから。今、この時間がキセキ過ぎてこの後が怖いです』
先輩の数倍の時間を掛けて打った返信に王子様は肩を震わせながら崩れ落ちた。
「せ、先輩⁈! 大丈……――――」
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