清潔な素肌

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 汗をかいたあとの麻衣子は甘ったるい匂いがする。  若い女特有の、花のような、ミルクのような、そのうえでどこか粉っぽく、円く芳しい香りが誰よりも強く放たれるのだ。  半袖の運動着を脱ぎ、キャミソール姿になった麻衣子がフェイスタオルで谷間の汗を拭う。背が低く、痩せぎすの身体についた麻衣子の小さな胸は、このクラスで一番幼い雰囲気を漂わせている。きっと麻衣子の薄い肌にはこの水色のレースのブラジャーよりも、コットンのスポーツブラのほうが似合うはずだ。 「雨の日の体育って蒸すからマジ苦手。汗ダクダクだよ」 「だねー。麻衣子、制汗シート要る?」 「ううん、いい。自分の持ってるから。ありがと」  麻衣子が鞄から安物の制汗シートを取り出し、首や胸元、脇の下などを拭いていく。あまりに安っぽい香料が麻衣子の体臭と混ざり、元来麻衣子が持ち合わせているあの甘ったるい匂いが品のないそれに上書きされる。私は自身の無香料の制汗シートを彼女の視界からそっと消し去る。 「みんなぁ、着替え終わったあー? ドア開けるよー」  仕切り屋の女子生徒が他の女子たちに向け確認を取る。各々ばらばらに返事をし、仕切り屋とその親しい友人が前後のドアを、窓際の席で着替えを済ませていた女子がひと息でカーテンを開け放つ。夏の雨の生臭い匂いが雨音と共に室内へ充満し、私は麻衣子の肌の匂いをすっかり忘れてしまう。
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