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「久しぶりね。奇遇だね、こんな所で会うなんて」
その声に私は再び驚かされた。あぁ、今日は本当に懐かしい人によく会う日だ!
「お久しぶりです! D先輩!」
私は彼女の方に向き直り、頭を下げた。彼女、D先輩は私が中学時代にお世話になった女子テニス部の先輩だ。いつも私に目を掛けてくれて、熱心に指導してくれた先輩だ。今でも、彼女に対して恩を感じている。しかし、本当に吃驚させられた。何故なら……。
「先輩、もう大丈夫なんですね。元気そうで本当に良かった」
私は少し涙ぐむ。先輩が中学三年の時、私は中学二年だったんだけど、この頃の先輩は大変だった。中学最後の大事な試合に加え、高校受験も迫っており、先輩のメンタルは不安定になっていた。先輩は段々と体調を崩し、結局、試合には出られず、学校にも来なくなってしまった。噂だと、受験は何とかなったらしいが、それでも中学校の校舎でD先輩とは二度と会えなかった。だから、こんな場所で再開できるなんて、とても嬉しかった。
D先輩は昔の様に私に微笑んだ。そして、ゆっくりと私の手を握った。
「ねぇ、折角の機会だし、一緒にお茶でもしない? 色々と見せたいものもあるし……」
「見せたいもの」という部分に違和感を感じた。でも、大好きな先輩に会えて舞い上がっていた私は特に深く考えもしなかった。
「良いですよ! 是非、一緒にお茶しましょう!」
笑顔で頷いた私は先輩に手を引かれ、歩き出した。
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