5人が本棚に入れています
本棚に追加
雨降りのバス停で二人、蒸し暑さを共有してたたずんでいる。バスが来る時刻まで後十分。去年新しく塗り替えられた屋根に激しくぶつかる音は私たちを孤立させている。
「やまねえな」
そう言って立ち上がる澄はベンチに座ったままの私を一瞥する。一年生のときは同じくらいだったのに。背が伸びたなあ、と眺めていると目線がぶつかってあからさまに目が泳ぐ。
「今言うのはずるいかもしれないけど俺、垣田のこと好きだよ」
雨音は鳴り止まない。聞き間違いかと思って澄を見ると耳が赤かった。教室の仲良しグループでルックスがいい澄には亜希っていう可愛い元カノが隣のクラスにいて、叶うことのないちっぽけな恋心だと思っていた。心臓はせっかちに喜ぶけれど冗談だったら気まずい、と数少ない慎重派な私の脳細胞が宥める。確かめるべく、「照れてんの」とゆっくり近づいてみた。脚が震えるけど平常心を保ったような声色を……出せてないかもだけど。左隣に寄ると、彼のじめっとした汗の匂いを感じた。にやついたはいいけど表情筋は戸惑っている。
「まさか本気なの?」
まさか、なんて白々しい。でもにやついた手前、信じられないというリアクションをせざるを得なくて真っ赤な澄につられて顔が熱くなる。ばちっと視線がぶつかると「ああ!」と唸ってしゃがみ込み、私の右の小指をそっと掴んでこう言った。
「好きだよ、好きなんだ。こんな俺でよければ付き合ってほしい」
慎重派な脳細胞は散ってしまって、小指から全身に向かってばくばくと高鳴っている。唇が震えて上手く動かないけれど、きゅっと握られた小指から澄の心細さが伝わってきた。雨の帳に感謝して声を絞り出す。
「私も好き、です――」
最初のコメントを投稿しよう!