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「待ってろって言ったろ」
そっか、風邪ひくなよじゃなくて「ここで待ってろ」だったんだ。じゃあ今、必死に追いかけたのは別の人の背中?
「だめ押しで職員室行ったら一本余ってるって」
澄、と呟くと肩を支えて起こされる。いったん戻ろう、と来た道を引き返した。もう一度校舎内に入って女子トイレでジャージを脱ぐ。おろしていたボブの髪を拭いてひとつに結び、靴下も取り替えた。
「……ごめん、洗って返す」
「うーん、いいよって言いてえけど断られそ。着たままでよかったな、不幸中の幸い?」
大げさ、と鼻で笑って畳んでビニール袋にしまう。何かに使うかもと普段から持ち歩いていたけど濡れた想い人のジャージをぎゅうぎゅうに突っ込むなんて思ってもみなかった。ずっしりと重いのは雨水だけのせいではない。
「もうすぐやむってアプリ嘘じゃん」
「嘘じゃねえ、ほら17時6分。ぴったり今な」
鞄を置いたまま、上履きで昇降口まで駆ける。
「本当だ、かんかん晴れてる!」
「かんかんじゃねーだろ、かんかんてのはもっと日差しの強いやつじゃん」
「細かいなあ。ねえ、なんで晴れる前に下に来たの?」
澄は黙って鞄のある上がり口まで歩いて行ってしまった。雨の帳、相合い傘……あれ、もしかして告白するタイミングを伺ってたのか。勘の良さと発言のズボラさに頭を抱える。
「澄!」
ゆったり振り返る澄。唇が震える。真っ赤な耳を隠す髪もない。でも言わなきゃ。
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