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果実のように、健康的で真っ赤な夕陽だった。
その夕陽の周りにあるのは、空間にあるモノを全て己の色に染め上げてしまう、茜色の空。
日中の間に、己の「存在証明」を終えてしまったのか、夏の風物詩である数多くのセミ達は既に鳴く事をやめ、眠りにつく事で次のアクションへの体力を養っている。
そのセミ達が眠る樹々の間をくぐり抜けながら、俺は思った。
──死ぬには最高にいい夕空だな、と。
望む望まぬはともかく、この地この世に生を受けて、25年。
俺は自分の「生」に区切りをつける為、とある公園に来ていた。
肩にかけたバッグには、輪っかにしたバスタオルが入っている。
コレを適当な枝に引っかけて、そこに首を入れれば俺は自然と苦しまずに死んでいく事だろう。
思えば、ろくな人生じゃなかった。
気弱な父親、決して美人とは言えない母親。
そして、学力も共に高卒の二人から生まれたのがこの俺なのだから、その出来はたかがしれている。
小中高大と、学校における俺の存在は、二時間目の授業に遅れて教室に入ってきても「いなかったのか」とクラスの皆に思われる子であった。
そして、俺のこの存在感の無さは社会人になっても続き、「あらゆる場面において主役になれない毎日」は、俺の精神をナイフでチーズを削るように確実に蝕んでいった。
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