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この日に備え、俺はありとあらゆる準備をしてきた。
美容院に行って、髪型を整えてきた。
剃り残しの髭が無いかどうか、T字カミソリを右手に持ちながら、数分の間、鏡を凝視した。
陰毛にトリートメントを施し、身体全体をまんべんなく洗った。
悔いの残らないよう、グルメサイトで高得点を叩き出していたラーメン屋で食事をする事で、食欲を満たした。
出かける前に、お気に入りのアダルト動画を見る事で、きっちりと性欲の処理も行ってきた。
言わば「死ぬのに最適な状態」を作り上げて、俺はこの公園へとやってきたのだ。
季節も、俺の大好きな「夏」を選んだ。
夏は、音楽の好きな俺が胸を踊らさせずにはいられないイベント、フェスが多数開催されるからだ。
両耳につけたイヤホンからは、BUMP OF CHICKENの「ハンマーソングと痛みの塔」が流れている。
やれやれ、ランダム再生とはいえ、どうやら俺の携帯オーディオプレーヤーも「俺の死」を歓迎しているようだ。
──さて、どの樹にバスタオルをくくりつけて、この「絶望の世界」からオサラバしようかな。
公園の遊歩道を歩きながら、出来るだけ人気の少ない場所にある樹を俺が探していた、その時であった。
遊歩道の向こうから、どう見ても「人生の落伍者」としか思えない、ワンカップ大関を右手に持ったオッサンが、フラフラと千鳥足で俺にぶつかってきたのだ。
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