48人が本棚に入れています
本棚に追加
「おい、気をつけろや」
千鳥足で俺にぶつかってきたというのに、まるで自分に非が無いようなオッサンの物の言い方。
それでなくても、この「最適な状態」にケチをつけられた、というのもあってか、俺はオッサンに向き直ると「お前からぶつかってきたんだろがぁ!」と、最大限の怒声を放った。
「あっ、あぁ……。
悪かったな、ちょっと酔っぱらいすぎたよ」
オッサンは頭にかぶっていた、今は亡き「近鉄バファローズ」の野球帽を脱ぐと、深く頭を下げた。
「いや、まぁいいけどよ……」
俺は溜飲を下げると、さっさとオッサンをやり過ごし、自らの死に場所を探す為に歩を進める。
「おいっ!」
が、オッサンは何故か歩を進める俺を呼び止めた。
「何だよっ!」
「お前、こんな夕飯時に何で公園とかうろついてんだぁ?」
「オッサンには関係ないだろがぁ!」
断ち切るように俺は言うと、踵を返し、再び歩を進めた。
「何か分かんねえけど、早く帰った方がいいぞ!」
オッサンは酔っぱらい特有の野太い声で、俺の背中に向かって言葉をぶつけてくる。
しかし、俺は振り返らずオッサンから逃げるように遊歩道を歩いていく。
「もうすぐ、夕立が降るからよぉ!
早く帰らねえと、ケツの毛までびしょびしょになっちまうぜ!」
続けてオッサンは言うと、高笑いを上げながら、遊歩道の奥へと消えていった。
──夕立だと?
オッサンの言った不可解な言葉に、俺は歩きながら眉根を寄せる。
最初のコメントを投稿しよう!