スイートガールフレンド

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そして仕事の打ち込む毎日。雑誌の洋服の仕事を終えた紀香。帰りの車の中でメッセージを読んだ。そこにあった友人からの言葉。彼についての話だった。 「どういうこと?電話だな、これは」 友人の恋人は、彼の同僚のバスケ選手。そして最近の彼について話してくれた。 『実はね。怪我をしていて。それでフォームが崩れて。今、スランプなのよ』 「そうだったんですか」 ベンチにいるのは知っていたが、怪我までは紀香は知らなかった。 『週刊誌のことは知っているけど。彼、落ち込んでいてね。あなたに振られたって』 「いいえ?どうしてそうなるんですか」 友人のおかしな話。紀香は冷静に訂正した。 「そもそも。私ってガールフレンドだったんです。彼はみんなにそう言っていたから」 『そうなの?』 「はい。それに、今はシーズン中だし、会わない方がいいって思って」 彼女は黙って聞いていた。 『わかったわ。彼には今の話を伝えていいかな』 「はい」 彼とやりとりできない思い。紀香は胸を抑えて彼の試合をテレビで見る日々を過ごしていた。 そんな中、友人たちが紀香を試合に誘ってきた。 「私が、観に行くんですか?でも、それは」 「だって、紀香ってただのガールフレンドなんでしょう、なら構わないでしょう?」 「そ、それはそうだけど」 ……直接会うわけではないし。女友人と一緒で遠くから試合を観るくらいなら許されるかもしれない。 それに広い会場で自分を見つけるわけがないと思った紀香。変装をして試合会場にやってきた。 この試合。負けると決勝トーナメントに行けない試合。互いのチームも張り切って応援するムードだった。 紀香は化粧室に行く時、廊下でチアガールのお姉さん軍団に出会した。 「紀香さんですよね。ちょっと。こっちに」 「は、はい」 廊下の端。チアのお姉さんにグルリと囲まれた紀香。ドキドキしていた。 「あのね。私たち、選手と一緒にいるから全部知っているんだけど、あなた、彼女ならしっかりやってよね」 「はい?」 「彼はね。あなたが華面ライダーに出ている時からずっとファンだったのよ。あなたに会えるのと楽しみにしていて。私たちも応援していたのよ」 「そう、だったんですか」 まさかの過去。紀香の知らないことばかりだった。 「あなたと交際してから彼、すごく活躍できていたの。それなのに何よ、『良い友達』って。彼のこと遊びだったの?」 「違います!でも、今はシーズン中だし、迷惑かなって」 ここでリーダー格のお姉さんが口を開いた。 「今日はね。負けられない試合なの。彼も出ると思うよ。だから、彼女でもガールフレンドでもなんでもいい。あなたなりに応援してちょうだい!」 「……はい!あの、ご心配かけて、すいませんでした」 頭を下げた紀香。そんな彼女にチアさんはイエーイとポンポンを振ってくれた。 「さあ、紀香さん。みんなも行くよ!横浜パイレツーーーー、GO!」 勢いで紀香もGO!で拳を上げて廊下の隅。ここで気合を入れてもらった彼女は観客席に座った。対面に彼が見える席だった。 始まった試合。しかし彼は控え選手。ベンチの彼。試合の様子を横目で観ていた。 ……やっぱり治ってないのかな。 試合よりも彼を観ていた紀香。するとベンチの彼は仲間に肩を叩かれていた。 「ね。紀香。気がついたみたいだよ」 「そう、みたいですね」 ……こっちを見ている。頑張って欲しいな。 試合会場の全てを無視して繋がった二人の視線。紀香は思わず手を小さく振った。彼は小さくうなづいた。 そして選手交代。彼がコートに出た。怪我から完全復帰。彼の活躍で試合が勝利を収めた。 「やった!勝ったわよ」 「よかったです……なんか泣けてきました」 コートでは今日活躍した選手はヒーローインタビューを受けていた。彼は呼ばれて話をしていた。 『怪我の復帰おめでとうございます』 「ありがとうございます」 『スランプで苦しかったと思うんですが、それを見事打ち破りましたね』 「はい……今日は大好きな人が応援に来てくれたんで、気合が出ました」 会場からは冷やかす声がした。 「紀香。帽子をもっとかぶりなよ」 「うん」 せっかくのヒーローインタビュー。しかし、今の状況はまずい思った紀香は急いで会場から逃げ出そうとしていた。だが、その高身長でファンの人に捕まってしまった。 「すいません。通してください」 勝手に撮られる写真。最悪の状態。そんな時、ここにまたしても救世主が現れた。 「みんなーーこっちだよ」 「はい!」 チアガールのお姉さんたちが紀香を囲んだ。そしてそのまま控室の方に移動になった。 「ありがとうございました」 「ここなら安心でしょ。あとは、しっかりね」 彼女たちはサッと引くと、そこには彼が立っていた。 「うわ。いつの間に」 「紀香さん。応援にきてくれていたんだね」 試合後の彼は汗だくで紀香を見つめていた。しばらく会ってなかった二人。紀香は胸がじんとした。 「ごめん。連絡できなくて」 「いいの。私こそ、迷惑かけて」 「そんなことないよ」 大きな体。彼は紀香を隠すように抱きしめた。 「シーズンが終わったら。連絡するね」 「うん」 「……紀香さん。その時に、告白したいから。それまでは『スイートガールフレンド』でいいかな」 「スイートガールフレンド?」 彼はにっこり微笑んだ。 「うん。優しいくて可愛い彼女って意味だよ。じゃ、送れなくてごめん」 彼はそう言っておでこにキスをして行った。 こんな再会後。紀香は仕事に、彼は試合に打ち込み、彼はとうとう優勝し、この年の最優秀選手になった。 「おつかさまでした」 「ありがとう。紀香さんは?お仕事は」 「今月は休み。ラジオも前撮りしたし」 「じゃ。行こうか」 紀香のデートプラン。やってきたレストラン。彼はそわそわしていた。 「ねえ。ここって」 「御面ライダーのロケできたところだよ」 「うわ?すげえ」 料理を注文した二人。最近の出来事を話し合っていた。 「ねえ。ところで。私の前からのファンだって本当?」 「バレたか。そう。本当」 「初めて試合で会った時、それで手伝ってくれたの」 「……まあ、そうなるかな」 チアガールに応援されて。勇気を出したと彼は恥ずかしそうに頭をかいた。 「でも紀香さんはモデルで、いつもかっこ良い人といるから。俺なんか相手にして貰えないと思って」 「いつもそう言われるけど、そんなことないのに」 ここで料理がきた。二人でワインで乾杯した。 「だいたいね。あなたの方がカッコ良いに決まってるでしょう?MVPなんだもの」 「頑張ります」 「もっと自信持ってよ。ん、何これ」 彼はポケットから指輪を取り出した。 「紀香さん。僕と結婚してください。お願いします」 「……はい。ありがとうございます」 にっこり笑った二人。指輪をつけて食事を楽しんでいた。 「ねえ。あとでチアガールさんにお礼を言わないとね」 「ああ。そのことだけど、結婚式でもなんでもいいから踊らせてくれって言われたよ」 「もう?ふふふ。素敵な人たちね」 夏の夜、思い出のテーブルを囲む二人。その指輪には幸せに光っていた。 完
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