#10 運命の出会いと別れ

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#10 運命の出会いと別れ

 大学に入学してからしばらくは、様々なサークルの勧誘を受けつつも静観していたが、どうしてもまた天文関係のサークルに入りたい、と思った私は、ある日のお昼休み、少し早くご飯を食べてから、思い切って天文研究会のサークルの部室へと足を運んでいた。  恐るおそるドアをノックすると、笑顔の可愛い女性が姿を見せた。 「こんにちは!新入生の方…ですか?」 「はい、あの…サークルのお話、伺いたいのですが…」 「どうぞ、入ってください」  部室の中には5人ほどいて、こちらを一斉にみられてちょっとひるんでしまった。 「もう、そんなにジロジロ見ない!さ、ここに座ってください」  部屋の中の長椅子に腰かけて、説明を聞こうとしていたら、一枚の紙を渡された。 「今、部長がいなくて…これ、説明聞きに来た人に書いてもらってるから、もしよかったら書いてね」  一応、入部を検討している状態だと告げてから、用紙を記入すると、サッと目を通して、最初に応対してくれた女性が声をかけてくれた。 「まりのちゃん、っていうのね、可愛らしいお名前!私はサキコっていうの」 「あ、ありがとうございます…」 「現役?浪人?」 「あ、一浪してます…」 「大丈夫、一浪なんて珍しくないから、気にしない、気にしない!どこの予備校に行ってたの?」  私は、たぶん知らないであろう地元の小さな予備校の名前をいった。 「あ、そこ、うちの部員で行ってた子いるよ、っていうか、そこに。ねぇ、Aくん、一緒の予備校だって、まりのちゃん」  サキコさんが声をかけた男性がこちらを振り向いた。その時、本当にドキッとして、一瞬時が止まるような感覚だったのを今でも覚えている。振り返った男性は、イケメンではなかったが、とてもやさしそうな面差しだった。 「初めまして。珍しいですね…私はAっていいます。どこの学科ですか?」 「あの…地学科なんです」 「じゃ、同じ学部ですね、私は物理学科なんです」  しばらくAさんと話していると、サキノさんが言った。 「盛り上がってるみたいだから、ここはAくんに任せちゃおうかな…なんかあったら声かけてね」  それからしばらく、お昼休みの間、Aさんと話して、午後の授業へ向かった。  このAさんが、のちに夫となる人であるが、まだそうなるまでには紆余曲折を経ることになる。  その後、仮入部を経て、正式に天文研究会に入部(入会?)することとなった。Aさんはいつも優しくて、何かと気を遣ってくれた。苦手な物理を教えてもらったりすることも多かった。でも、その時には、好きという感情は全くなくて、先輩として尊敬しているレベルだった。  一方、違う大学に進学した彼も、大学生活をエンジョイしているようだった。大学生になってそれなりに会えるようになった私たちは、それでも変わらずデートなのかウォーキングなのかわからないデートをしていた。  ある時、夕暮れに川べりを歩いていたら、彼が突然立ち止まった。 「まりのちゃん…」 「どうしたの?」  彼の方を見たとたんに、抱きしめられてキスされてしまった。一年以上キスすらしてこなかったのに、と、驚いた。動けないでいると、急に彼が謝りだした。 「ごめん、急にこんなことして、ビックリしたよな?」 「う、うん…大丈夫…」  彼は彼なりに、男性の多い理系に進学した私が心配で、不安だったのだと思う。それからは会うたびにキスされたり、体を触ったりされた。前の彼ほど嫌で吐き気がすることはなかったけど、心地がいいとも思わなかった。  それからしばらくして、男と飲みに行くな、サークルをやめろとか、たまたまかけてきた電話に出ることができなくて、帰ってくるのが遅いとか、さんざん言ってくるようになって、面倒くさくなってしまって、私から別れたい、と告げた。束縛されたくないから、と。彼は、自分の誕生日の前日まで、もう一度考えてほしい、と言ってきた。私の答えが変わることはなかったけど、彼も気持ちを整理する時間が必要だろうと思い、その日まで待って、もう一度別れを告げた。  この時も、結婚する気なんてさらさらなかった。恋愛と結婚は別だと思っていたから。周りの友達に合わせて、こんな人が理想だよね、なんて言えるぐらいにまではなっていたが、理想なんていない。本気で、猫と暮らすのが理想だと思っていた。私は彼に恋していたのかどうか。今思えば、恋してなかったが正解だと思う。そんなに簡単に自分以外の誰かに心を預けるなんて、自分の親にすらもできないことなのに、できるわけない、そう思っていたのだ。  その後、彼も、可愛らしい女性と結婚し、お子さんも授かったらしいと風の便りに聞いた。彼の幸せを、心から願うのみだ。
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