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#14 異変
Aさんがずいぶん迷った末に大学院への進学を決めて、しばらくたった頃のこと、毎月来るべきものが来ない、という、自分の身体の異変を感じた。Aさんはちゃんと避妊をしてくれる人だったが、物事に絶対はなく、新しい命が宿っていることを知った。Aさんとさんざん悩んだ末、今の自分では幸せにできない、と言われ産まない選択をした。その時、自分の気持ちは、あんな親に育てられた自分が、まともに育てられるわけがないという気持ちと、それでも産みたいという気持ちが交錯していた。
ちゃんと二人で決めたことだったけど、産まないという選択をした自分が許せなくて、Aさんに嫌われるようなことをし始めた。学科やサークルの男友達とサシで飲みに行って夜遅く帰ったり、電話に出なかったり、学内で出会ってもそっけなくしたり。自分が幸せでいることが許されないと思ったから。さすがに、Aさんを裏切るような真似はしなかったし、しようとしてもできなかったと思う。
でも、それらは全て無駄だった。Aさんの気持ちが揺らぐことはなく、やがて、私も諦めたというより、自分の気持ちに嘘がつけなくなってやめてしまった。結婚したいという意向を伝えられると、もう、頷くよりほかはなかった。
ちなみに、両親はAさんと交際していることを知っていて、なぜか、Aさんは両親にウケが良かった。ある日、父が今度うちに呼べというので、Aさんがうちに遊びに来た時のことだった。母とキッチンにいると、突如、父がAさんに話し始めた内容が聞こえてきたのだが、それがある種衝撃的だった。大学院を卒業して、経済的に安定したら、さっさと結婚しろ、みたいなことを言い出したのだ。父からAさんへの逆プロポーズだった。
Aさんは、それに応じてそのつもりです、と答えていた。父に対して、なに勝手に言ってるんだか?と思ったが、結果としては悪くはなかった。
こうして、Aさんとの結婚が自分の未来の目標となって、もちろん結婚自体が嬉しいと思えたし、やっとこの両親から逃れられる日が見えるという希望でもあったのだった。
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