#21 決別、そして今

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#21 決別、そして今

 自分の心のささくれが、もうすぐ他人をも傷つけそうなほどにとがり始めたころ、私は読書会で出会った女性に会いに行っていた。これまでも何度かは会いに行っていて、自分では少しずつ自分のつらかったことや苦しかったことを吐き出すことができている、と思っていたが、実はまだまだ自分の中に根深いものがあると思い知ることになる。  とにかく年上の女性との関係がことごとく悪化してしまうということを繰り返し、その度に対処をしていた。その後も相手を変えて次々に起こるようになり、本命の母との事でも介助の関係で苦しんでいた頃、もう、母との縁を切るしかない、とアドバイスを受けるまでになっていた。  それを言われた後もなかなかそのようには思いきれず、何度も逡巡してはどうにか母のいいところを無理やりに思い出そうとしたり、母も可哀想だったんだ、と自分を言い聞かせようともしていた。  家族と共に、母と面会するため施設へと足を運んだ時のことだった。私は、英語のとある試験に合格したことを母に告げると、母は、あの一番私の嫌いな笑顔をした。幼いころや、女に言いがかりをつけられた時に見た、あの唇をゆがめた顔。必死で育児や仕事の合間に勉強して、やっととった資格の話に対して、その顔をする母が許せなかった。もう限界だと思った。  何日か経って、夫に、今後母とは一切会わないことに決めたと話したとき、夫は、親不孝などとは一切言わず、私の決めたことを全て肯定してくれた。この時、私は母には恵まれなかったけど、私を理解してくれる伴侶には恵まれたのだと、私の欲しいものは夫が持っていたのだと知った。  こうして、私はこの日「母の娘」を捨てた。母を許さない自分自身を許したのかもしれない。多分、私は一生母を許すことはないのだろう。誰に何と言われようが、許せないものは許せないのだから。母を恋う気持ちもないから、会いたいとも思っていない。最後のお別れにすら行くかどうかも怪しい。これからは「自分の人生」を精一杯生きたいし、今まで失われた「自分の人生」を取り返すには、残された時間はあまりに短い。この時に決断できてよかった、そう思って今日も生きている。周りの人のために、自分のために。
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