#04 転落

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#04 転落

  父は、とある国家資格を持っており、自分の事務所を持っていた。多分、それなりに裕福な家庭だったと思う。おやつには、母が作ってくれたケーキやクッキー、パンなどが出されて、またそれを習いに友達のお母さんたちが来るような環境だった。  でも、私が小学校の低学年だったころに、悪意ある人に騙されて、順調だったはずの事務所が倒産してしまったところから、私だけでなく家族の歯車が狂い始めてしまう。  父は、借金取りから逃げ回り、家に寄り付かなくなってしまったので、家に押しかけてきたり、ひっきりなしに電話が鳴ったり、と心休まらない家庭へと様変わりしてしまった。母は、自分が出ると何かしらの対応をしなければならないから、と、私に電話やインターホンの応対をさせた。本当に怖くて本当に嫌だったけど、それでも、有り金を支払う羽目になって崩れ落ちて泣いていた母の背中を忘れることができず、一生懸命母をかばい続けた。  その時には、そうし続けるよりほかはなかった。いつ終わるのかわからない電話やインターホンの音におびえる生活がしばらく続いたと思う。正直どれほど続いたのかは思い出せない。  ちなみに、電話が鳴るたびに知らないおじさんに怒鳴られる、という経験をし続けた私は、大人になった今でも電話が苦手である。出前の電話すら大嫌いである。インターホンが鳴ると、今でも時々飛び上がるぐらい驚いてしまう時もある。  そのころの私は、一回でもいいから、母に抱きしめてほしかったのかもしれない。「ごめんね」でもいい。一番は、そんなことをさせない母でいてほしかった。守ってくれる母でいてほしかった。  今、思い出せるのはこれぐらいで、幼いころの私が固く閉じた記憶の蓋は、大人になった私では開けられない。自分を守るために、渾身の力を込めたのだろうか。もし、その時の自分を抱きしめることができるのなら、膝にのせてやれるのなら、そんなことをしなくていいよ、逃げていいよ、と言ってやれるなら、どんなに救われただろう。
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