#05 さらに転落

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#05 さらに転落

 時は流れて、小学校の高学年になったころ、父は事務所が倒産して以来勤め先が長く続かずぶらぶらしたり、母もパートへ出るなどしていたものの、とうとうマンションの管理費が払えなくなってしまい、転居することとなった。  産まれて以来住んでいたところを離れて、隣の市に移り住んでから、私はいじめられるようになった。  あまり方言を話さない地域から、わりと方言を話す地域へと引っ越したため、まず話し方をからかわれ、皮膚が弱くて頭皮がボロボロだから汚いといじめられ、鼻の下をこすっただけで鼻をほじったと嘘を広められたりした。  どうしても同じ中学に行きたくなくて、お金がなくて塾にもいかせてもらえない中、必死で勉強して某私立中学の普通科の試験に合格したが、難しい方の学科じゃなくて普通科だからと、行かせてもらえなかった。しかも、なぜか中学受験したことがバレていて、それがさらにいじめられるネタになった。  中学に進学してもいじめられる日々が続き、隣の一学年上の先輩からいわれのないことで絡まれ、校舎の裏に呼び出されたり、立候補してもいないクラスの副委員長にされてしまったり、楽しいと思えることがほとんどなかった。  もう、こんなにつらいことばかりなら、生きていたくない、と、隣の高層マンションにフラフラと上った。ここから飛び降りたら楽になれるだろうか、と思って下を見た瞬間、足がすくんでどうしても飛び降りられなかった。結果として、自分の高所恐怖症に命を救われた。  その頃、楽しいのは勉強だけだった。勉強は私をいじめたりはしない。すればするだけ成績という形で応えてくれる。それに、勉強ができたら、父や母がほめてくれるかもしれない、そう思って必死で勉強した。でも、そんなことが起こるわけはなく、何回も取った満点近い点数より、80点を叱られたときに、本当に悲しくて、プチ家出をした。  それからは、勉強にもそんなに身が入らなくなってしまった。高校受験の時に、学区のトップ校に内申点がわずかに届かず、二番手校に進学することが決まった時、「もう、お前には期待しない」と言い放たれた。  そんなこと、言われる前から分かっていた。もともと、愛されてもいなければ、期待されてもいない子だってこと。子供ができると思わずにした行為で生まれた子供だってことも繰り返し言われていた。  たぶん、このころはどうしたら命を落とすことができるか、と、生きていきたい、という気持ちとがずっと心の中で相克していたのだろうと思う。なぜ、たぶんなのかというと、これも同じで、このころの私が記憶に蓋をしてしまったと思う。これもまた、今の私には開けることができないものだ。
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