#06 難病と初めての彼

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#06 難病と初めての彼

 学区で二番手の高校に入学した私は、高校では意外にのびのびと過ごせていた。同じ中学から数名しか進学しておらず、途中で一人が引っ越していったから、中学時代までの私を知る人がほとんどいなかったからである。  でも、経済的に困難なことは相変わらずで、お金がなくてお昼もろくに食べられなかったり、弁当を入れてくれても晩ごはんがなくて、両親とも飲み歩くような生活だったため、父か母を探して近所の飲食店を探すことが多かったと思う。  そんな乱れた食生活が良くなかったのか、高校2年生になる直前の春休み、突然下痢になってしまった。市販の下痢薬でどうにかやり過ごそうとしたものの、三日三晩下痢で苦しみ、とうとう形容しがたいものと血とが混じったものが出てきて、たまらず病院へ行くと、即入院を言い渡された。  数日後に下された診断が、「潰瘍性大腸炎」だった。形容しがたいものと血が混じったものは粘血便というらしい、というのは後ほど知ったことである。とにかくひどい痛みと下痢とで、トイレに間に合わなくて、生理用ナプキンが手放せない程であった。一か月ほどで小康状態にまでなり、入院しながら通学していたが、退院できそうだといわれると、熱が出て退院が延期になるのを繰り返していた。主治医は首をかしげていたが、今思えば、家へ帰りたくないという身体の反応だったのだろう、と思う。  ちなみに、入院した時も、母は悪い意味でやっぱり母だった。退院した後に聞いたことだが、入院が決まって、その足で24時間営業のファミレスに行った、と笑っていた。その時思ったことは、もう言うまい。諦めはじめていたのかもしれなかった。  それと前後して、その年の1月ごろから、姉の彼の友達と交際するようになっていた。私にとって初めての彼と呼べる相手だった。彼は私の4歳上で既に働いていて、私からすると大人な存在であった。4歳上だから、当然というか、キスしたり身体を触ったりされて、それがとても嫌だった。煙草を吸う人だったからかもしれないが、キスをされた後、たいていトイレに駆け込んで吐いてしまっていたけど、彼とはこういうことをするものだ、と自分に言い聞かせて我慢していた。  ある時、デートしていたら、行為をしたいと言われてしまって、さすがに無理だと悟った私は、まだ嫌だ、と断った。とにかくキスが苦痛、端的に言うと不味くて、その頃には好きなのかどうかも怪しかった気がする。彼は強引に連れ込むようなことはしなかったが、元カノとヨリが戻ったというか、行為をするようになっていったらしい。その辺の時期がごまかされたのは、病気をしただけでも大変なのに二股をかけられたなんて可哀想、という姉の配慮だったのだろう。私が行為を断ってから舌の根の乾かぬ内だったのではないか、と思っているけど、今となっては知る由もないし、知りたくもない。  このころの私は、病気のことで頭がいっぱいで、彼のことなんて些細だった。彼が好きだったというよりは、彼がいるということに憧れていただけだったんだろうと思う。今、思い出しても、悪いことしか思い出せない。道路に痰を吐くのも嫌いだった。つくづく流されなくて良かった。  しばらくして結婚したと聞いた時、とてもホッとした。きっと、お互いに出会わない方が良かった存在だったんだろう。
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