中宮さんたちが天才になれる方法

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「どうも〜。」 朝日さんは僕等に手を振ると、祖母ちゃんの方に行って丁寧に挨拶をしていた。 「どうぞゆっくりして行って下さい」 祖母ちゃんの声が聞こえて、朝日さんが僕等の座っている方向に笑顔で歩いて来た。 「小鳥遊くん初めまして。朱音の従姉の中宮朝日です。この間は朱音が色々とお世話になったみたいで、ありがとうね。」 会社帰りの朝日さんは、紺のシンプルなワンピースを着ていてボブのヘアスタイルもとても似合っている。顔は中宮さんにどことなく似ていてキレイな人だ。 「こちらこそ仕事帰りに来ていただいてありがとうございます。中宮さん、あ、朱音さんと同じクラスの小鳥遊聖です。朱音さんから聞いていると思いますがここは僕の祖母のやっているカフェです。ここならゆっくり話せるかなと思いまして。」 僕と対面になるように、朝日さんと中宮さんに並んで座ってもらった。 朝日さんはアイスロイヤルミルクティーを、中宮さんはブルーベリーティーを注文した。 「あの朝日さん、とお呼びしても良いでしょうか?朱音さんを中宮さんといつも呼んでいるので…。」 「OK〜何でも良いよ。」 朝日さんは親指と人差し指で丸を作ったOKポーズを見せながら笑顔でそう答えてくれた。 「あの、早速なんですが今日は朝日さんと中宮さんを天才にする方法を考えるため集まってもらいました。」 「ありがとう小鳥遊くん。」 「ありがとう小鳥遊くん。」 朝日さんと中宮さんが僕をキラキラした目で見つめている。 「ちなみに朝日さん、今現在進行形でお付き合いしている人は…?」 「居ないよ。フラれたばっかりだから。」 「えっ、朝日ちゃん!この間一回り近く年下の人と別れた後にまた新しい恋バナがあったの?」 中宮さんが驚いて立ち上がった。 「フラれた?とは?」 僕は冷静に朝日さんの恋愛話から整理してみる事にした。 「仕事先でね、良いなと思う人が居て。アプローチしてたんだけど反応悪くてね。そしたらその人の後輩の方がアプローチして来てくれて二人で食事行ったりしてたら、また違う後輩からも告白されて、更に前の職場の人からもアプローチしてもらってて、えっどうしようとか思ってたんだけど、自分の気になる人とはダメみたいで。」 「ま、待って朝日さん!登場人物多すぎて分からない!で、結局今その仕事先の気になる人を気になってるんですよね?」 朝日さんの恋愛話の展開が早すぎて僕はしばし混乱していた。 「分からない。なんかアプローチしても反応あんま無かったから新たに好きな人探してる。」 僕は朝日さんの恋愛話を聞いていてとても不思議に思う部分がある。 「その人のどこが好き、というか気になりました?」 「う〜んなんとなく。同じ職場で見た感じは歳下っぽいけど前よりは歳離れてなさそうだし、なんかいい感じかな〜と思って。でもあんまり話した事はなかったんだ。アプローチしたのに成就しないって事は全く気が合ってないって事だから違ったみたい。早く次行こうと思って。」 正直言うと朝日さんのは恋愛話じゃない。恋愛感情というものが全く見えてこないただの近況報告だ。だが朝日さんの婚姻届をシュレッダーにかけたあの話を聞いた後だと、多少恋愛が荒れていても言うのが可哀想になる。恐らく朝日さんに近い人は皆そう思っているんだろうな。 ただやっぱり朝日さんの恋愛話って…。 「あの、朝日さんって年下が好きなんですか?元婚約者の人とか、あと後輩とか年下のしかも結構離れてる人多いですよね。」 「いや、全然。年上で居るならそれでも良いし。どちらかと言うと甘える方が好きだから。ただ今までの職場で年下の人と出会う確率の方が多かったから、独身の人も私の年齢になると年下の方が多いでしょ?」 「確かに」 僕と中宮さんは頷いた。 僕はずっと疑問に思っていた事を朝日さんに聞いてみた。 「あの…因みに朝日さん過去を遡って好きだった人って居ます?う〜ん例えば、その人と会えたり話せたら胸がキュンとしたり1日それで幸せ…みたいな事です。恋愛ってそういう事だと思うんですよ。好きな人が側で笑ってくれてたら幸せじゃないですか。」 そう言いながら僕は中宮さんを見つめると、中宮さんも僕を見つめ返してくれたので、恥ずかしくなって目を反らした。 「う〜〜ん。そうなると中学の時好きだった先輩かな〜?それだとその気持ちに近いかも。」 中学! そこまで遡らないと朝日さんの恋愛はないのかと僕は驚いた反面、淡々とした朝日さんの恋のメモリー(恋と言っていいのか)にそういう人が1人でも居て良かったと感じた。 「なんか1人でも居て良かったです。交際した人には居なかったんですね…。そっか。」 中宮さんも必死で頷きながらこの話を聞いている。 「じゃあ例えばお見合いみたいなものってどうなんですか?朝日さんの分析的な恋愛にはぴったりじゃないですか?そうしたら出会えるのは年下だけではないと思いますし。」 僕は朝日さんにそう投げかけてみた。 「お見合いはね〜実はした事あるの何回か…。でも「独身の僕らからしたら結婚ってすごく憧れますよね。」って言われたら何とも言えないじゃん?別の人にも「婚姻届書く時ってやっぱり特別な気持ちになるんでしょうね」って言われて、いいえシュレッダーする時の方が特別な気持ちになりますって言いたかったんだけど、言えなかった。ほら私、プロフィール上は初婚じゃない?なんか、みんなキラキラしてて自分との違いを感じちゃった。」 「婚姻届を書くという行為に対し漠然とロマンを感じてしまう僕らの気持ちだけは朝日さんに気安く言っちゃダメですね…。」 朝日さんは可哀想だ。だがしかし…。 「朝日さん、失礼ですが朝日さんの人生面白過ぎます。普通あんま無いじゃないですか?自分の婚約者の人をバイトで雇って下さいって頼んだりとか。婚姻届をシュレッダーにかけるとか。でいて全っ然王道の恋愛は出来てないとか!朝日さんの恋愛の部分だけでも何冊かは本が書けそうじゃないですか。書きましょう!」 「え?書きましょうって何を?!」 朝日さんは余程ビックリしたのか、飲み物を持ちながら静止画のように止まっていた。 「朝日さんの人生を元にした恋愛小説ですよ!漫画でも良い。内容は、のっぴきならない事情で婚約を解消してきたヒロインが人生で初めて大恋愛をするっていうハッピーエンドの胸キュンラブストーリーにしましょう!中宮朝日はこれから作家になります!」 「おおーっ!良い。私賛成!」 中宮さんから盛大な拍手をもらったので僕も手を振って応えた。 「えーっ私、小説とか漫画とかって今まで書いたことないんだけど…。」 朝日さんが不安そうに僕の方を見ながらそう言った。 「だから今から書きましょう!朝日さんのその珍しい経験という材料が勿体ないし、もしかしたらそこに朝日さんの才能が見つかるかもしれないじゃないですか!それに自分の自叙伝を書いておけば朝日さんのトリセツにもなりますから、デートする前に読んでもらえば朝日さんが好むような感じに寄せてきてくれるかもしれませんよ。最低でも朝日さんが首を傾げたくなるような事は相手は言わないでしょう。」 「小鳥遊くん天才!それ朝日ちゃんの恋愛にも効果ある!」 中宮さんが今度は立ち上がって拍手をしながら賛同してくれた。 「これが僕が考えた「中宮朝日さんを天才にする方法」です!」 そう、中宮朝日を天才作家にするんだ。そうして小説通りに恋愛も上手くいく。我ながら良いシナリオだ。ま、恋愛の方は僕もアシストするとして…。 まずはそこから始めるんだ!
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