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「何だか楽しそうね〜。どうぞ聖からです」
祖母ちゃんが僕が前もって頼んでおいたクラブハウスサンドとケーキを持ってきてくれた。
「わぁ〜美味しそう!」
中宮さんの喜ぶ顔が見れて僕は幸せを感じていた。
「メニューの物も好きな物あったら注文して下さいね。聖のバイト代から全部引いておくから大丈夫。」
「ありがとうございます。小鳥遊君男前〜朱音見る目あるね。」
朝日さんがニヤニヤしながら僕らを交互に見た。
中宮さんは焦っていて、僕も恥ずかしくて上手く返せなかった。
「あの、話戻りますが朝日さんさっきの話…」
「小鳥遊くん私やってみるよ。書いてみるね。私なりの作品。」
朝日さんが乗り気になってくれたところで「第1回中宮さんたちを天才にするミーティング」は終了した。
帰りは女子二人で話して帰ると言っていたので、僕は近くの駅まで二人を送って行った。
「天才作家にする」なんて僕の思い付きだけど、朝日さんは面白いし、中宮さんの謎のおまじないよりは可能性はあるだろう。
久しぶりに嬉しそうな中宮さんを見れたのも安心したし僕は幸せだった。
「おはよう小鳥遊くん。」
朝、教室で大きく伸びをしていると中宮さんが僕のところに駆け寄って来て笑顔で挨拶をしてくれた。
「昨日は本当にありがとう。ご馳走さまでした。朝日ちゃんもすごく喜んでた。これから宜しくお願いします。」
「そっか。喜んでくれたなら良かったよ。またミーティングしよう。」
中宮さんとの距離が縮まった感じがしてニヤけていたら篠嶋が僕の顔を覗いて来た。
「うわっ!何だよ。」
「おはよう小鳥遊くん。何ナニなに〜?朝からラブいじゃん〜」
篠嶋は肘で僕の肩を突付きながらニヤニヤしている。
“小鳥遊くん”なんて篠嶋に呼ばれるのは小学校以来で笑ってしまった。
「ラブいっていうか…。あ、篠嶋ありがとうな。お前の生ワッフルは最高のアイテムだった。」
「俺のあげた生ワッフルがどうした?」
首を傾げる篠嶋に「今度お礼に奢るから」と言って肩をポンと触った。
「第2回中宮さんたちを天才にするミーティング」は朝日さんの招集によって開催された。
このミーティングは誰の招集であっても僕がカッコつけたいという理由でうちのカフェを集合場所としている。
「小鳥遊くん、書けたよ。」
朝日さんからタブレットを渡され、文書作成ソフトに書かれているストーリーを読んだ。
「漫画じゃなくて小説で書いてみたんだ。とりあえず…ヒロインが運命の人に出会う前の話までだけど。」
「朝日さん…。これ、面白いです。」
朝日さんの話を聞いていて、絶対小説や漫画にした方が良いくらいのインパクトがある人生だとは思ったけれど、朝日さんにこんなに文才があるのは嬉しい驚きだった。初めて小説を書いたとは思えない程上手に書けている。
「特にこの、ヒロインの婚約者が仕事を辞めた後、彼の父親が「うちの息子はまだ若いんですから」ってヒロインに言いに来る無情なシーンはヒロインを応援したくなりますし、婚約者の母親が泣きながら謝りに来た日の夜、それまで気丈に振る舞っていたヒロインが初めて泣くシーンはこちらもウルっと来ます。これって…」
「私の話。」
改めて朝日さんの婚約してた話ってすごい話だと思う。朝日さんが明るいからそう感じないけど。
「あ、でも実際は婚約者の父親に言われたんじゃなくて、婚約者に言われたの。「うちの息子はまだ若いのに可哀想だって昨日親父が言ってたよ〜」ってポップな感じで。」
「何じゃそれ!」
僕は危うく目の前の飲み物を倒してしまいそうになるくらいズッコケたし、中宮さんは頭を抱えていた。
「それは君は聞いても私には言っちゃいけない話だよって教えたけど、そのまま書いちゃうと笑える感じになっちゃうから、ラブストーリーだし直接言われた話にしたんだ。」
朝日さんは笑っているけど、心から笑っているのとは違うんだろうな、といつも思う。
「上手く書けたなら良かったよ。でも婚約解消して別れてからがまだストーリー考えてないんだ。」
「朝日さん!」
僕は立ち上がった。
「このヒロイン、朝日さん同様に絶対幸せにしましょう!」
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