中宮さんたちが天才になれる方法

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「小鳥遊くんこの後なんだけど、ヒロインにどんな恋愛させたら良いと思う?」 朝日さんはアイスロイヤルミルクティーをうちのカフェで販売している食べられるストローでかき回した。 プラスチックのストローを廃止する事になり可愛くて飲み物も美味しく飲めるものがあったら良いという祖母ちゃんのこだわりで導入した食べられるストローはお客様にも好評だ。 話が逸れてしまったが、朝日さんの小説のヒロインの恋愛相手は朝日さんがモデルなので、朝日さんの理想のタイプが良いんじゃないかと考えていた。 「因みに朝日さんはどういう人がタイプですか?」 「それが分からないんだよね…。昔はあったような気がするんだけど、パッと浮かばない。仕事はしてて欲しいけど。」 仕事はしてて欲しいという一言が妙にリアルで、想像より大変だったんだろうなと改めて思った。 「あ、でも気が合う人が良いかな。やっぱり大事な時に気が合わないと前の時みたいにグダグダになっちゃうから。」 「なるほど…大事ですね。」 気が合う人か…。朝日さんの心からの言葉なんだろうな。なんか切ないけど。 「朝日ちゃんには白馬に乗った王子様が現れて欲しい〜」 「中宮さん、それそのまま書いたらファンタジー寄りになっちゃうから!」 中宮さんの面白発言で、僕らはほっこりした。 そうだな。小説なんだから、白馬はファンタジー過ぎるけれど、そのくらいドラマチックでも良い。 「見た目とかどうです?こんな感じが好きとか。芸能人でも良いし、漫画とかでも良いですよ。」 「あ、朝日ちゃん好きな少女漫画あったよね!」 中宮さんが嬉しそうに話始めたのは、朝日さんは“恋するhoney”という少女漫画の夏宮くんという男の子が好きだったらしい。 「良いじゃないですか!その夏宮くんをモデルにして書くの!恋愛小説なんですから漫画みたいな出会いで良いんですよ。思いっきり夢のあるものにしましょう。」 「そっか…じゃあ例えばこのカフェを舞台にするのも良いよね。朱音と小鳥遊くんが仲良くなったのも、その小鳥遊くんのお祖母様がカフェやっててここでうちらお茶してるのも考えたらドラマチックじゃない?」 確かに。僕らの出会いってのも考えたら面白いよな。普通に高校生活をしていたら朝日さんの年齢の女性とカフェでミーティングしているなんてないからな。 それも中宮さんが変なおまじないをしていたところをたまたま見たというキッカケだったし。 「会社帰りにいつも寄るこのカフェを出逢いの場所として書いても良いし、ヒロインが会社を辞めてこのカフェで働くって設定も良いな…。ねぇ、この食べられるストロー作ってる人との恋愛とかいう設定は?」 「朝日ちゃん良いね〜ラブストーリーっぽい!」 中宮さんと朝日さんはきゃっきゃと喜んでいて、そんな姿は可愛くて微笑ましいかった。 「そう言えば、小鳥遊くんのお祖母様はここのカフェやってらっしゃるけど、ご両親は?ここのカフェ手伝ったりするの?」 僕の顔色を見ながら、私たちに話せる範囲で良いから。と付け加えてくる朝日さんはやっぱり繊細な人だ。 「うちは…父はここのカフェをはじめ何店舗か店を経営しています。母は専業主婦だったんですが、妹が中学に入ってからはここのカフェとか父の店をちょっと手伝ったりしてます。それこそ手芸が好きなのでここでソーイングの会を開いたりとか。」 そう。父がいつも忙しいので母は僕と妹の事をすごく考えてくれていた。妹が中学に入って部活に熱中するようになり、僕もここのバイトを楽しんで行っているので母も少し自分の時間を楽しみ始めた。僕らの事をいつも一番に考えてくれていて母にはすごく感謝している。 「へぇ〜小鳥遊くんのお家ってすごいね!ね、朝日ちゃん…。」 「そうだねぇ〜。」 朝日さんはまたロイヤルミルクティーを食べられるストローでかき回した。 「ねぇ、小鳥遊くんは将来とか何かやりたい事あったりする?」 無かったら無理しないで良いからと気遣いをしてくる朝日さんはやっぱり大人だ。 「僕は…。このカフェを…祖母の店を継ぎたいなって思ってて、製菓の専門学校に行こうと思ってるんです。」 実は父親には一度反対された。ここのカフェは祖母ちゃんの趣味でやらせてあげているもので、店舗としての儲けはそこまで無いらしく、父の親孝行のひとつで祖母ちゃんが辞めたら畳む店だからって。 当時夢とか目標が無かった僕がここのカフェでバイトして初めて目標が出来た大切な場所だ。スイーツを食べて研究したり、このカフェに協力出来る事はしてきた。 そんな気持ちを母さんは分かってくれて応援してくれていた。 「そっか〜目標があって素敵じゃん。じゃあ朱音も一緒にここで働かせてもらえば?お菓子作り好きなんだから。小鳥遊くんにお嫁さんにしてもらってさ〜」 「ちょっと朝日ちゃん…」 中宮さんが真っ赤になって朝日さんの腕を押さえていて、僕も恥ずかしくなって何て答えて良いか分からなくなった。 「はい!朱音の進路は決定ね。小鳥遊くん朱音を宜しくね。」 朝日さんの目が真剣で少し戸惑ったけど、中宮さんは幸せになって欲しいし、幸せにしてあげたい。 それがもし僕が側にいてあげる事なら、僕は中宮さんのそばに居てあげたいし、うちで働きたいなら、協力してあげたい。 こんな気持ちは初めてだった。 朝日さんの小説のヒロインの運命の恋の設定がだいたい決まったところで、僕らの今回のミーティングは終了した。 今回も中宮さんたちを駅まで送って、帰り道一人でずっと考えていた。 僕がもし中宮さんと恋人になれたとして、将来的に中宮さんを幸せに出来るだろうか。 僕は朝日さんの婚約者みたいに、うちの母さんに泣きながら謝らせたりするのだけは絶対嫌だ。 大事な人を守れるようになりたい。 「ただいま」 「おかえり聖。夕飯は食べて来るかなと思ったけど、ビーフシチュー温めれば食べれるからね。」 母さんはいつも笑顔で僕らを迎えてくれて、どんな時だって聖の好きな事をしなさいって言ってくれたから…。 「母さん僕、進路変更しようと思う。」
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