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僕が意識を失ってどれくらいたったかは解らないけど、やっぱり僕は千秋に見つかって病院に運ばれたみたいだ。
朦朧とした記憶の中で診察もした気がするけどほとんど覚えていない。記憶に残るくらい意識がはっきりしたのは全部終わってからだった。
千秋はずっと僕の側についていた。やっと貰えた連休だし、日本人らしく神社に賽銭投げに行ったりソバ食べたりしたいだろうに、何も言わずに僕の側についている。
いつものソファ、いつもの後頭部。
こっちが申し訳なくなるじゃないか。
「…千秋」
「あ?」
「ごめんなさい」
「…」
ひどく長い沈黙が流れる。
「…なんか言ってよ」
「いや、あぁ…まぁ気にすんな。それより…その、俺の名前知ってたのか」
「そこかよ」
「重要だろ」
「まぁね、どうせ千秋は僕の名前知らないだろうけど」
「…か、和夫」
「誰それ。蒼(アオイ)だよ。」
「蒼」
名前を呼ばれて心臓が跳ね上がった。こりゃ体に悪い。
「悪かったな…俺も大人気なかった。」
「いいよ別に。てゆうかダメ男が僕に謝ると思わなかった。」
「そのまま返すよ糞ガキ」
「どっかで聞いたねソレ」
「ん。言ったなコレ」
千秋が振り向き、少し意地悪そうにニヤリと笑ったので、思わず僕も笑い返してしまった。
それからの僕の体調はだいぶ良くなった。病院ってスゴい。ただ後は、極限まで体力が低下しているらしいから規則的な生活と食生活、絶対安静を言い渡された。と、千秋が言っていた。そして今日も昼に千秋と散歩に出かけてる。熱が下がってから僕達はこうして近所をぶらぶらする事が習慣になりつつある。
東京とは思えないほどの見晴らしの良い、さびれた街並みの河川敷を歩く。途中のコンビニで肉まんとあんまんを買い、河原に座ってのんびり食べる。昼とは言え気温はバカみたいに低いから僕達は自然とお互いの体温を求めて密着してる。
「幸せ~やっぱり冬はあんまんと河川敷だね」
「あんまり聞いたことの無い組み合わせだがな、まぁ同感だ」
「これでコタツと緑茶なんかあれば最高だよね~」
「河川敷にあまり求めすぎるな。てゆうかコタツには冷たいビールだろ普通。これだからガキは困る。」
「千秋こそ未成年にどんな発想求めてるんだよ。それにガキって言うけどね、僕もう高校生だよ?大人の階段登り始めてるんだから」
「10歳以上離れてる奴をガキって呼んで何が悪い。」
「7つだよ」
「…蒼、お前まさか16か」
「ん」
「13くらいだと思ってた」
呆れてものも言えない。僕は無言であんまんを口に含むと、既に肉まんを食べ終わった千秋が16…16か…とボソボソ呟いているのを聞く。
「まぁ有りか。そういやお前さ、明後日から学校じゃね?俺は明後日から仕事だぞ」
千秋の言葉に固まる。
「…今日、何日?」
「4日。今年は土日挟んだから結構のんびりできたな」
僕は溜め息を押し殺す。
「母さん明日帰ってくる」
千秋がこっちを向くのがわかった
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