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終わり
僕はその後すぐに千秋のアパートに帰った。前を睨み付けてズンズン進む僕の後ろを千秋は何も言わずに付いてきた。
千秋が僕の家から取ってきた洋服や下着をむちゃくちゃに鞄に詰め込む。無言で手伝おうとする千秋を無言で押しとどめる。
夕飯はいつものメニューのようで、所々にさり気なく手の届きにくい食材が混じっている。変なこだわりを持つ千秋にとってこれがご馳走のつもりだと知ってるから、なんか食欲が無くなって味が全然解らなくなった。
最後の晩餐?みたいな
なんだそれ
「なんで怒ってんの」
食後のテレビをソファで堪能してると千秋が聞いてきた。相も変わらず千秋はソファを背もたれに、僕はそんな千秋の後頭部を見ながらソファに寝そべる。
「別に」
「突然反抗期に入りやがって」
「ツンデレって言うんだよ」
「なんで怒ってんの」
「…」
黙秘。
「なぁ」
「ダメ男さ、母さんにプロポーズしないの?」
「はぁ?なに言ってんだお前」
「良いじゃんプロポーズしなよ。僕の父さんは父さんだけだけど、母さんの旦那なら認めてやっても良い」
「話聞け」
「ダメ男こそ。母さんのこと」「俺は可南子さんをそういう目で見てねぇよ」
どこか怒ったような千秋の声が響く。
「お前もそういう目で見てたのか。可南子さんは俺にとって神みたいなもんだ、そんな関係になりたいとは思っていない」
「…マジすか」
「マジ…ってなんで泣いてるんだよ」
気が付いたら目から涙が出てた。慌てて起きて目を擦る。千秋が体をずらして僕と向き合う形に座る。畳に座る千秋の頭は僕の少し下にあって、嫌でも目を合わせなければならない。
「どした~」
「どうもしない…」
涙が止まらない。
「結婚…すりゃ良いじゃん」
「…」
「母さん美人だし、ご飯毎日食べられるんだよ。それに」
「…」
「僕とも一緒にご飯食べられるじゃん。毎日3人で一緒に…馬鹿話しながらさ。今日みたいに」
そうだよ。こんな可愛くて健気な子とずっと一緒に暮らせるんだよ。願ったり叶ったりじゃん。
「あ~つまり、だな。俺と一緒に暮らしたいっつーことか」
「違うよ」
「そうだろ」
「…そうなの?」
「そうだよ」
涙でぐしゃぐしゃの顔を掴まれる。
「俺と一緒に暮らしたいんだな」
目が合う。千秋の顔。
「…わかんない。」
「じゃ試してみよっか」
その声が聞こえたと同時に千秋の唇が僕の唇にくっつく。キスされてる。
ふにふにしてる。
ぼんやりしてたらゆっくり唇が離れていった。イヤらしい顔した千秋の顔が至近距離にある。
「気持ち良かったろ?」
「別に」
「あそ。顔真っ赤だけど」
「…っうるさい!」
顔を背けようとしても掴まれた手に顔を固定されてて上手く行かない。
恥ずかしくてまた泣いたら千秋は慌てて手を離して僕が落ち着くまで抱き締めててくれた。
そして夜
何故か今日は一緒に寝ることになったらしい。いつもは寝袋に寝てた千秋が僕の布団(正確には千秋のソファベッド)に入ってくるもんだから、僕は狭くて仕方なかった。
でも千秋の体温が温かくて優しいもんだから僕はすぐに眠りに入ることが出来た。千秋が僕の体をベタベタ触りながらなん言ってたが良く聞こえなかった。なんか怒られてる気がする。とにかく、こうやって一緒に寝てくれたことが千秋がこれからも一緒に居てくれる証のようで嬉しい。
千秋ありがと。大好きだよ
声に出してたのかはわからないけど、千秋が俺もだよって答えてくれた気がした。
end
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