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存在の写し絵
「こいつはおまえと同じで、外の世界を知ってるんだ。いいなあ」
初めて相棒を訓練場から連れてきた日、リエルはそう言った。彼の師たる父親を始め、鷹匠たちが訓練のために地上へ連れ出すのだと。そして口を尖らせた。「俺は一緒に行けないのに」と。
この町では未成年を地上に出さない。大人たちは口を揃えて、外の危険性を強調する。
いわく、日中の砂漠は灼熱。天に清浄かつ苛烈な火が燃えている。病を齎す悪魔も、惑乱を齎す霊も焼き尽くすその熱に、人も体が未熟なうちは耐えられない。
いわく、日が落ちれば獣や盗賊が蔓延る。
いわく、昼夜問わず襲来する砂嵐が人の視界を奪い、叩き伏せ、肺を侵して息を奪う。
そんな場所で行き倒れた旅人の子が、僕という「親なし」の「よそもの」だ。年の近い子の中でその呼び方をしないのは、狩りの帰りに僕を見つけてくれた鷹匠の息子、リエル一人きりだった。
彼は一人親に似て優しく、一つ屋根の下の生活は楽しかった。けれど二人が狩りや訓練で出払うと、近所の子どもが代わる代わる僕をからかう。それに耐えかね、僕は六歳でリエルの家を出た。
町の最盛期に疫病が流行り、人口が一度に減ったらしく、どの階層にも家は余っている。最上層に至っては空き家しかない。湖から遠く、水汲みが大変だからだ。平穏を求め、僕はあえてそこを選んだ。リエルが毎日遊びにくるので、寂しくはなかった。
「僕は外のこと、憶えてないよ」
「そっか、俺と同い年ってことは、二歳かそこらだったんだよな。迎火式が待ち遠しいなあ、まだ十年も先だけど」
迎火式――成人となる十八歳の誕生日。この日から年長者の付き添いのもと、天の火の下に出ることが許される。狩りや隊商との取引で夜に遠出をする場合のみ、羊脂の蝋燭を持てるようにもなる。
僕の本当の生年月日は不明なので、リエルと同じと彼の父親が決めた。地上へ出る日はリエルも一緒。それなら両親の命を奪った過酷な世界も、怖くはないと思えた。
「さあ、こいつを食事に出さないと。鐘楼から飛ばすぞ。昼餉の鐘を鳴らすなら、上っていいって言われたんだ。おまえも来いよ。煮炊き場の真横だ、誰も来ないうちに食膳を受け取れる」
リエルは僕が籠りっぱなしにならないよう、かつ嫌な思いをしないよう、気を配ってくれていた。感謝を伝えたくも、お礼を言うと彼は照れるあまり不機嫌になる。だから話題を切り替えた。
「その子、こいつってしか呼ばないけど、名前は?」
手に据えた相棒を揺らしもせずに歩きながら、リエルは答えた。
「外で何か『良いもの』を見つけて、その名前を付けるんだ。こいつが本格的に活躍するのは地上だからな。長命種だし、のんびり待っててくれるさ。おまえも考えてくれるよな? 外に出るときは一緒なんだから」
頷かない理由はどこにもなかった。
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