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「愛してる」とか「好き」だとか、甘い言葉をSEXの時以外に口にした事は無かったけど……。
それでも俺は、那智が俺を愛しているんだと信じていた。
だから嫉妬深い部分も受け入れたし、那智が望めば大概の事は受け入れて来た。
それはずっと、那智が俺を好きだと思っていたからだったのに……。
その日は、珍しく那智から「今日、帰れない」と連絡が入った。
珍しいなぁ〜と思ったけど、那智が朝帰りするのはたまにあったので気にも止めなかった。
そう、それは那智を信じていたから……。
そんな俺が今、目の前の光景に動けなくなっている。
那智が居ないので寝坊してしまった俺は、那智から「治安がよろしくないから、決して近付いたらダメだよ」と言われた近道を走っていた。
そこはラブホが立ち並ぶ繁華街で、昨夜お楽しみになった方々がラブホから出てくる時間なのは分かっていたが、近道だからとラブホ街を走り抜けた時の事だった。
視線の端に、見覚えのある姿が目に入った。
思わず立ち止まり、その姿を目視した瞬間に血の気が引いた。
綺麗な女性の肩を抱き、那智がラブホから出て来たのだ。
(嘘だ……)
目の前が真っ暗になった。
那智、その綺麗な女性は誰?
昨夜は、その人と寝たの?
ここを通っちゃダメって言ったのは、那智が他に恋人が居るのがバレちゃうから?
ショックだった。
重くなった足を引きずり、俺は来た道を引き返す。
那智にとって、俺は何なんだろう?
一緒に暮らして、サッカーだけじゃなくて飯や身体のメンテナンスまでしてくれて、もしかして……性欲のコントロールまでしていたって事か?
俺達の関係に、きちんと「恋愛感情」が成立していると思っていたのは、俺だけだったのだろうか?
(那智……、俺は那智が分からないよ……)
ポツポツと落ちて来る涙を拭い、俺は那智の家には戻らずに電車に飛び乗り、実家へと向かっていた。
この日、俺は人生初、学校をズル休みした。
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