修羅場……の筈が

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修羅場……の筈が

「なんだって?」 その日の夜。 サッカー部を辞めたいけど、サッカー推薦で入学したから学校を辞めたいと言ったら、冒頭の一言を親父が呟いた。 「お前、まだ入学して1年も経って無いだろう!我儘言うな!」 そう叫ばれてしまい 「だったら、ここから通う!」 と叫んだ俺に 「なんだ?16歳にもなって、ホームシックか? とにかく、明日は帰って学校と部活に行きなさい!」 そう言い返されてしまう。 親父の言葉にぐうの音も出せずにいると、家のインターホンが鳴り響く。 どうやら那智が迎えに来たらしい。 「まぁ!伊澤監督、わざわざすみません」 母さんの声と共に、那智が現れた。 「矢澤!連絡取れなくて、心配したんだぞ」 真っ青な顔色をした那智に、一瞬絆されそうになる。俺は那智から視線を逸らし 「学校……辞める」 そう呟いた。 すると那智が弾かれたように 「何でだ?お前、今、有望視されてるって言うのに!」 と叫ばれ 「もう、あの家に帰りたくない」 そう呟いた俺に、那智が傷付いた顔をする。 (なんで那智が傷付いた顔をするんだよ……) 心の中で呟く俺に 「とにかく、矢澤の気持ちは分かった。まず、一度帰って話をしよう」 と言われてしまい、俺は渋々那智の運転する車で帰宅する事になった。 帰宅する車内では、那智に背を向けて助手席に座っていたので沈黙が続く。 「雄也……、急にどうしたんだ?」 帰宅して、開口1番に言われた言葉に視線だけ向けた。 那智は普段、物腰が柔らかくいつも穏やかで優しい口調だが……。 俺と2人の時は素を出すので、感情が露になる。 「そんなの、自分の胸に聞いたらどうだ?」 那智の顔も見ずに呟くと 「雄也、顔を見て話したらどうだ!」 俺の肩を掴み那智が叫んだ。 見上げた那智の顔は、たった半日なのに憔悴しきっていた。 「連絡が取れなくて、心配してたんだぞ」 そう言いながら俺の頬に触れる那智の手を払ってしまい、那智が再び傷付いた顔をする。 (傷付いたのは俺の方だ!) そう思いながら顔を逸らすと 「言いたい事があるなら、ハッキリ言ったらどうだ?何が気に入らない?今朝の朝帰りも、前持って連絡しただろう?」 那智の荒らげた声に、俺は一瞬だけ睨み付けて部屋へ戻ろうとした。 そんな俺の腕を掴み 「雄也!!」 叫んだ那智の顔を見つめ 「お前、今朝何処に居たんだよ」 そう呟くと、那智は一瞬ピクリと右眉を動かした。 那智は嘘を吐く時や都合が悪い事になると、右眉が微かに動く。 ジッと那智を見つめて居ると、那智は俺から視線を逸らし 「お前には関係無い」 そう呟いた。 俺が那智を見つめ 「今朝、お前が女とラブホから出て来たのを見た」 そう言うと、那智はハッとした顔で俺を見つめた。 暫く黙って見つめ合うと、那智がゆっくりと掴んでいた俺の手を離して 「そうか」 とだけ呟いた。 その言葉にカッとなり 「否定しないのかよ!お前、何なんだよ!」 那智の胸ぐらを掴み叫んだ。 もう終わりだ……そう思った。
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