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「鼻血出してぶっ倒れるとか!」
目を覚ますと、大爆笑しながら那智がお腹を抱えている。
「那智!そんなに笑ったら悪いわよ!」
爆笑する那智を制しながら、憧れの伊澤紗那が俺に微笑み掛ける。
(あ!もちろん、今は衣服を身に着けている)
「ごめんなさいね、驚かしちゃって」
ふわりと笑う伊澤紗那に、俺が鼻の下を伸ばしていると
「ゆ〜う〜や〜」
って、那智が恨めしそうな視線を投げて来た。
ぶっ倒れた俺が目を覚ますと、那智と伊澤紗那が心配そうに俺を見下ろしていた。
那智の話だと、週刊誌の記者に追われていた伊澤紗那に呼び出されて迎えに行ったのがラブホで、俺は迎えに行った那智と伊澤紗那がラブホから出て来た姿を偶然見たらしい。
「ごめんなさいね、誤解させちゃって」
憧れの伊澤紗那に謝られたら、そんなの……ねぇ。
何でも、伊澤紗那には一般人の恋人が居て、週刊誌に追われる度に那智を呼び出していたんだとか。
(それがたまにある朝帰りの真相だった!)
いつもなら、那智に自宅まで送って貰っていたらしいが、マネージャーから自宅に週刊誌の記者が張っていると連絡が入り、那智の部屋で一夜明かしたらしい。
(まぁ、お陰で俺は生伊澤紗那に会えたけど!)
部屋にあった伊澤紗那の写真集にサインを貰い、俺のご機嫌は既に治っていた。
「誤解させてしまったみたいで、ごめんなさいね」
大好きな伊澤紗那に謝られ
「あ!いえいえ!とんでもないです」
と答えると
「安心して。那智、貴方しか見えてないから」
そう言って、妖艶に微笑まれた。
その妖艶さにドギマギしていると
「姉貴!マネージャーに連絡したんだろう?さっさと帰れよ!」
って、那智が俺と伊澤紗那の間に割って入って来た。
「なぁに?那智。ヤキモチ?小さい男ねぇ〜」
呆れた顔をする伊澤紗那に
「うるせぇ!大体、誰のせいでこうなったと思ってるんだよ!」
那智がムキになって怒っている。
「あら、誰のせい?」
「お前だろうが!」
言い争っていた時だった。
「お前?ちょっと、誰に向かってお前呼ばわりしてるのよ!」
終始穏やかに話していた伊澤紗那が、那智の腕をひねりあげた。
「痛え!止めろ!」
「ちょっと、那智!あんた、口悪すぎよ。大好きな雄也君の前でカッコつけたいんだろうけど、限度があるわねぇ……」
怒り心頭の顔で言うと
「悪かった!姉貴、許してくれ!」
初めて見た、那智の情けない姿。
伊澤紗那は那智の言葉に手を離すと
「次にあんな態度取ったら、ぶっ潰す!」
って言い残した。
(こ……怖っ!!)
2人のやり取りに怯えていると
「やだ、怯えちゃった?雄也君、きみにはこんな乱暴な事しないわよ」
そう言って伊澤紗那がにっこりと微笑むと、彼女の鞄に入ったスマホが鳴り響いた。
どうやらマネージャーのお迎えが来たらしい。
程なくして、マネージャーの車が迎えに来て、伊澤紗那が嵐のように去って行った。
「お前、あんな凶暴女の何処が良い訳?」
去って行く車を見送ると、那智が溜息混じりに呟いた。
俺は部屋へと戻る那智の背中に
「だって、那智に似てるだろう?」
そう答えた。
そう、初めて伊澤紗那を見たのは、那智が俺から離れて間も無くだった。
週刊誌のグラビアで、水着姿で写る伊澤紗那の顔は何処となく那智を彷彿させた。
那智が女性だったら、こんな感じなんだろうな……と見ていた。
俺の言葉に、那智が弾かれたように振り向いた。
「それって……」
そう呟いた那智に、俺は顔が真っ赤になっているのが分かる。
急に恥ずかしくなって、逃げるように部屋に戻ろうと那智を追い越した瞬間、那智に腕を捕まれて部屋に押し込まれた。
ドアが閉じると同時に唇を塞がれ、荒々しいキスをされてしまう。
「んっ……ふぅ……んんっ……」
舌を絡められ、口内を犯すように那智の舌が俺の口内を舐め回す。
立っていられなくなり、ズルズルと身体がドアに凭れたまま沈んで行く。
やっと解放されると、那智は俺の耳朶を甘噛みしながら
「だから、大好きな伊澤紗那に気付かないで、俺が浮気したと思ったんだ」
そう囁いた。
図星を差され、羞恥に顔が熱くなる。
「雄也。お前、どんだけ俺が好きなんだよ」
那智はそう囁きながら、首筋に舌を這わす。
「あっ……」
甘い声が漏れると、那智は意地悪な顔をして俺から身体を離した。
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