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「学校……辞めるんだったよな?」
那智がぽつりと呟く。
「お前、今それを言うか?」
頬を膨らませた俺の肩に那智が額を乗せて
「心臓が……止まるかと思ったよ」
ぽつりと呟いた。
「大袈裟だな……」
苦笑いを浮かべる俺を那智はギュッと抱き締めて
「俺の生き甲斐は、雄也だけなんだよ」
そう呟いて、悲しそうに微笑んだ。
「雄也は忘れているかもしれないけど……、俺はお前に救われたんだ」
那智はそう言って、ぽつりぽつりと語り出した。
那智が膝を壊しサッカーを諦めなくちゃならなくなると、それまでチヤホヤしていた人達が蜘蛛の子を散らす勢いで離れて行ったらしい。
傍に残った人でさえ、まるで腫れ物に触るように接するばかりで苦しかったんだそうだ。
そんな中、小さな子供がキラキラした瞳で近付いて来て
「お兄ちゃん、伊澤選手でしょう?」
って聞いて来たらしい。
何も知らずに話しかけて来た子供に
「もう、お兄ちゃんは選手じゃないんだ」
そう答えた那智に
「何で?」
と聞いて来た子供に
「膝を怪我してね、もうサッカーが出来ないんだよ」
って答えたらしい。
するとその子はそんな那智に
「怪我してサッカー出来なくなっても、俺にとって伊澤選手はヒーローだし、伊澤選手が居たから俺、サッカー始めたんだ!」
そう言われて、那智は嬉しかったらしい。
「俺、大きくなったら、伊澤選手みたいなサッカー選手になるんだ!」
穢れの無い瞳で言われて、那智は救われたんだと話していた。
でも、それから俺に対して可愛い自分のファンという存在から、性的対象になってしまい怖くなったんだとか。
抗う感情と求める感情のバランスを崩してしまい、那智は俺から逃げたんだと。
でも、一度は離れたものの、高校で俺と再会して歯止めが効かなくなったんだと話してくれた。
「何だよ!そういう事は、先に言えよ!」
唇を尖らせて呟いた俺に、那智はそっと抱き締めて
「雄也。俺にとってお前は、唯一無二の存在なんだよ」
そう言って唇を重ねた。
「だからもう二度と、離れるなんて言わないで……」
情けない声の那智に、俺は苦笑いを浮かべた。
「仕方ねぇな!」
そんな那智を抱き締めると、那智がふわりと微笑んだ後に俺の身体を抱き上げた。
「ちょっ!那智!!」
慌てる俺に、那智はにやりと笑って
「仲直りした後は、やる事は1つだろう?」
そう呟いた。
俺は一瞬呆れてから
「仕方ねぇな……」
と答えて那智の首に手を回し、那智の唇にキスを落とした。
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