【序章】

4/6
前へ
/280ページ
次へ
   ※※※  二〇二一年 八月二十一日 居酒屋  この日は、大学でやっと出来た友人と共に、サークルである「都会研究会」の先輩方と飲みに行っていた。  段々と場も盛り上がってきたため、今どき珍しい王様ゲームをする羽目に。  覚束なくなってきた手で作られた即席のクジを皆で引き、最初に王座を勝ち取ったのは、サークルの中で断とつテンションの高い先輩だった。  王座を得た彼は、ニヤニヤと何かを含んだ顔をしている。僕は、その表情に若干顔を引き攣らせつつも命令を待った。  絶対に当たったら面倒だ。当たりませんように……当たりませんように!  ぎゃーぎゃーと騒ぐサークルの皆を余所に、僕は箸を折る勢いで握りしめて願っていた。  遂に、先輩は千鳥足で座布団から立ち上がると、呂律の回らない口で高らかに言い放つ。 「ほんじゃあ、言っちゃおーかなっ! 三番と五番がN山の祟り地蔵の写真を撮ってくることにしまぁーっす!」  恐る恐る自分の数字を確認した。いやいや、そんな不運なことがあるだろうか?  数回瞬きをして、目を潤した後もう一度確認する。だが、何度見ても僕の手には数字の五番が握られている気がする。  あーあーあー最悪だ。嘘だと言ってくれ! 完全にフラグを回収してしまった。僕にはそういう節が多々ある。  N山――あそこは、血の涙を流す地蔵がいて、目が赤く光った際には連れて行かれてしまう。ゆするものかと声が聞こえるのだとか、常々薄気味悪い噂を聞く。  だから、絶対に行きたくない! 何より僕は怖いものが大の苦手なんだ! 「そんな無茶ですよ! あんな所バチが当たりますって!」    自分の不運さに完全にパニックになった僕は、空気を読むというスキルをすっかりに忘れ、思わず先輩に口走った。というか行きたいなら先輩が行けばいいと思う……と悪態まで添えて。
/280ページ

最初のコメントを投稿しよう!

651人が本棚に入れています
本棚に追加