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二〇二一年 八月二十一日 居酒屋
この日は、大学でやっと出来た友人と共に、サークルである「都会研究会」の先輩方と飲みに行っていた。
段々と場も盛り上がってきたため、今どき珍しい王様ゲームをする羽目に。
覚束なくなってきた手で作られた即席のクジを皆で引き、最初に王座を勝ち取ったのは、サークルの中で断とつテンションの高い先輩だった。
王座を得た彼は、ニヤニヤと何かを含んだ顔をしている。僕は、その表情に若干顔を引き攣らせつつも命令を待った。
絶対に当たったら面倒だ。当たりませんように……当たりませんように!
ぎゃーぎゃーと騒ぐサークルの皆を余所に、僕は箸を折る勢いで握りしめて願っていた。
遂に、先輩は千鳥足で座布団から立ち上がると、呂律の回らない口で高らかに言い放つ。
「ほんじゃあ、言っちゃおーかなっ! 三番と五番がN山の祟り地蔵の写真を撮ってくることにしまぁーっす!」
恐る恐る自分の数字を確認した。いやいや、そんな不運なことがあるだろうか?
数回瞬きをして、目を潤した後もう一度確認する。だが、何度見ても僕の手には数字の五番が握られている気がする。
あーあーあー最悪だ。嘘だと言ってくれ! 完全にフラグを回収してしまった。僕にはそういう節が多々ある。
N山――あそこは、血の涙を流す地蔵がいて、目が赤く光った際には連れて行かれてしまう。ゆするものかと声が聞こえるのだとか、常々薄気味悪い噂を聞く。
だから、絶対に行きたくない! 何より僕は怖いものが大の苦手なんだ!
「そんな無茶ですよ! あんな所バチが当たりますって!」
自分の不運さに完全にパニックになった僕は、空気を読むというスキルをすっかりに忘れ、思わず先輩に口走った。というか行きたいなら先輩が行けばいいと思う……と悪態まで添えて。
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