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紅梅
小張家に貞吉少年を使いを出すと、諾と返事が返ってきた。
いつでも良いと。
せめて穏やかな小春日和を選んで、瑞垣はようよう腰を上げた。
瑞垣は件の文箱を携えて、緩やかな坂を登る。
空の青は淡く、吹く風は薄い。先日の訪問から幾らも日が経っていないが、また季節が一段進んでいる気がした。あと六日もすれば冬に足を踏み入れるだろう。
小張邸の門に近付くと、長身の影が見ゆる。近付けば案の定、黒衣の日向だった。今日は満州服だ。
「よくおいで下さいました」
小張家の秀麗な家令は、相も変わらずゆったりと笑う。
訪問の時間を知らせた覚えはないが、何れ此の男も人外の範疇だ。であれば、雷神からの前触れでもあったのだろう。
瑞垣は黒衣の男に黙礼した。
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