Blood Red Sun

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 深い海の色のセーターに、黒のパンツ。年代物の上質な赤ワインのような色と滑らかさのガウン。整えらえた口髭と顎鬚。手には今時、アンティークのオイルランタン。  出てきた男のいかにも文学青年風な格好に、蛇の舌のような妬みの火が、ダグの胸でちょろりと燃えた。 「……よう、ノエル。久しぶり」 「……どうしたんだ、急に」 「近くまで来たから、ちょっと顔でも見ようと思ってさ」 「君、一人で?」男は伸びをしてダグの後ろを見た。 「ああ。ふらっとね」 「そうか。入りなよ」  小学校の時はよくつるんで遊んだが、それもあの日までだ。きっと玄関でひと悶着あると覚悟していたダグは、すんなり入れたことに拍子抜けした。  一歩入った広いホールを、ダグはまた不審そうに見回した。  こういう屋敷では、たいてい花やら写真やら肖像画やらが、入り口からずらりと自分たちを見せびらかしにくる。けれど、ランタンに薄暗く照らされたここは、がらんどう、という言葉がぴったりなほど物がない。  ダグは、その質素な雰囲気が心配になって、さりげなく探りをいれた。 「ずいぶんさっぱりしてるな。それに、使用人はいないのか? こんなに広いのに」 「ああ。無駄に金は使わない主義でね」  前を歩く男の言葉に、ダグは貯め込んでやがるな、と安心した。  それに、今はこいつ一人。いたとしても、あとは老いぼれが一人。いや、十八年前でもう既に「年寄り中の年寄り」だったらしいから、たぶんもう、いない。  ギャンブルの取り立て屋は容赦ない。もう、あとがない。  ことが順調に進む予感に、ダグのからだを廻る血のアドレナリン濃度が増した。
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