Blood Red Sun

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 ホール横の応接室のような広い部屋では、夜の冷たく尖った空気を癒すように、暖炉がとろとろと焚かれていた。  ダグは、俺のロンドンのしみったれたアパートがすっぽり入りそうだ、と高く白い天井とウォールナットの壁で囲まれた部屋を眺めた。  ここも物がない。  ウォールナットの小さな丸テーブルの横に、深いガーネット色の布が張られたソファ。同じく深いガーネット色の四角いクッションが置かれた、肘掛けつきの頑丈そうな木の椅子がひとつ。  グラスと酒瓶が並ぶ、作り付けの棚。  正面の壁の中央に鎮座する、かち、かち、と振り子を揺らす、それだけは存在感のある木製のホールクロックは、八時を二十分過ぎたところ。  それらを間接照明のフロアライトと、暖炉の上で温かな光を放つランタンが柔らかく照らしている。  勧められた木の椅子に腰かけたダグに向かって、長髪男は困ったように腰に手を当てた。 「君が来るなんて思ってないから、何もないんだ。食べかけの夕食はあるけど……嫌だろ。飲み物は? スコッチはどう? グレンファークラスか、カリラがある」 「じゃあ、グレンファークラス」  グラスに注がれる琥珀色の液体を見ながら、ラベルの「25年」の文字にまた蛇がちろりと舌を出した。  しかしこいつ、随分と優しくしやがる。いきなり現れた俺にビビッて、媚びへつらおうってことか。そして、あの日からのことを水に流すつもりか。  そう思いながら、ダグはすっと辺りに目を走らせた。  テーブルの上、食べかけの夕食が載ったトレイの横で、細いナイフがランプの光を反射して鈍く光っている。  ダグはジャケットのポケットに手を突っ込んだ。ぐるぐると、細く、長いものが手に触れる。  ちょうどいい。話がうまくまとまらなくて、この電気コードでもじたばたするようなら、最後はあれだ。
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