Blood Red Sun

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 ……頭が、痛い。  ダグはゆっくり目を開けた。 「ひどいじゃないか、ダグ」  くらくらする頭に低い男の声が響く。おそらく自分が持ってきたコードで、椅子に両手を後ろ手に縛られている。  息が止まりそうな勢いで腹を蹴飛ばされ、吹っ飛び、そのあと床のタイルに頭を叩きつけられたところまでは覚えている。  彼は何度かまばたきし、うなだれていた頭をのろのろと上げた。 「……悪かった。つい。もう、しない。頼む。放してくれ」  男はソファに仰向けになり、たいして痛くもなさそうに首をさすっている。 「君は『つい』人の家に電気コードを持ってくるのか?」  ダグは、また顔を下に向けた。  どうする。何とかして逃げないと、警察を呼ばれちまう。いや、もう呼んだに違いない。クソ。刑務所は嫌だ。  まだ朦朧とした頭で、ダグが必死に考えを巡らせていると、突然、きいい、という悲鳴のような音が部屋に響いた。  ダグは、ぱっと音のした方を見た。  部屋の扉が、ゆっくりと開く。警官の黒い制服を予想して、彼は身を固くした。  予想は外れた。スマホを片手に入ってきた、グレーのトレーナーにジーンズ姿の若い男が、驚いたようにその場に立ち尽くした。 「……え、これ、何の騒ぎ?」  二十歳を少し過ぎたほどの、茶色い麻の買い物袋を肩に提げたその男は、ぽかんと口を開けて、二人の男に代わる代わる目を走らせた。 「ダグ・ジョーンズ」長髪が手をあげて、紹介するように言った。「君の『友達』だってさ。ノエル」 「ダグ?」ノエルと呼ばれた若い男が訝し気につぶやいた。「なんで、ここに?」  長髪男がおどけたように両手を広げた。 「急に訪ねてきて。君だと勘違いされたから、上手く話を合わせないと失礼かなと思って。なんとか君から聞いた話で繋いでいたら、殺されかけた。普通の人なら死んでたね、間違いなく。怖い、怖い。金目当てかな。妬みかな。両方かな」  ノエルの表情がさっと強張り、声色が低く変わった。「……僕を、殺そうとした?」  二人の会話を聞きながら固まっていたダグの心臓が、どくりと鳴った。  眉をひそめ、自分を見つめる男。二十九にしては若い。だが、記憶のノエルに似てるのは確かにこっちだ。 「……お前が、ノエル」ダグは長髪男に向き直った。「じゃあ、お前、誰だよ!」 「そっちが勝手に勘違いしたんだ」  楽しそうにくっくっくっくっ、と長髪が揺れた。 「そしてながら、君がここにいることは、誰も知らない」
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