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街の中心からだいぶ離れ、街灯のない道路からさらに細い道を100mばかり進んだ林の奥に建つ、二階建ての堂々とした古い屋敷。
ダグは、その玄関のオークの扉をぐいと引いた。
動く気配はない。
秋の終わりを感じ始めた木々から黄色や橙の葉が落ちて、玄関ポーチの灯りの下、くるくると渦を巻く。
十八年前のあの日は簡単に開いたのに、とダグは舌打ちした。
頭に浮かんだ「あの日」と言う言葉に、唾を吐きたくなる。
うつむいた先に見える、ほつれたジャケットの袖。土で汚れたジーンズの裾。
今や、豪邸住まいの、ノエル。片や、仕事を次々クビになり、金はなく、さらに一攫千金を狙ってやばい闇ギャンブルに手を出して、二十九にして借金まみれの、俺。こんなにも違うのか。あの日、ここに来たせいで。
ダグはドアをこじ開けようかとも思ったが、すぐ横の窓にかかるカーテンの隙間から淡いオレンジの光が揺らめいたのを見て、ノックへと作戦を変えた。
家の中を幽霊のようにゆらゆらと灯りが移動し、やがて扉の向こうから男の低い、くもった声がした。「どちら様?」
「ノエル? 俺だ。ダグだよ。ダグ・ジョーンズ。小学校一緒だった」
がちゃりと掛け金の外れる音がして、ドアの向こうから、肩ほどの黒の髪を垂らした若い男が顔を出した。「ダグ?」
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