雨の日の恋人

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 暫くしたら本当に芽が出た。私は小学校の二年生になっていて。前ほど頻繁には来られないけれど、お母さんにねだって週末のたびに樫の木さんに会いに来ていた。新芽を見つけて、お母さんと一緒に手を叩いて喜んで。ドキドキしながら雨の日を待った。 「え?」  現れた樫の木さんを見て私はびっくりした。その子は私と変わらないくらいの男の子だったからだ。 「新芽だから、姿も子供なんだ」  樫の木さんは照れたように鼻を掻いた。自分と変わらない姿の男の子を樫の木さんって呼ぶのもおかしくて、それからは樫くんって呼ぶようになった。  同じように成長してきたからかどうかは分からないけれど、私の『好き』は違うものに変わっていった。それはちょっと厄介だ。厄介だけれど、擽ったくて愛おしい。    ☂️ 「桜良」  私がよそ見をして幹ばっかり撫でているから、困ったように樫くんが声を掛けてきた。絵梨ちゃんがあんなことを言うから、変に意識してしまっていつもみたいに樫くんを真っ直ぐに見られない。 「あんまり撫でられると擽ったい」 「え! あ。えええぇぇっ」  動転して傘を放り出してしまったのは私がおかしいからだ。樫くんは悪くない。悪くないけど、責任の一端は樫くんにあると思う。たぶん。私に睨まれて、樫くんは不思議そうに首を傾げた。  雨が降ると、私は大好きなひとに会いに行く。  だから私は雨の日が待ち遠しい。
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